一部遺言

遺言書の難しさ

相続人の財産を受け継ぐのが相続ですが、遺された財産の内容がよくわからなくては受け継ぎようがありません。理論上は(法的には)すべて受け継いでいても、具体的に名義変更や分割の手続きをするとなれば遺産をはっきりさせなければなりません。

遺言書で最も簡単なのは、
「私の全財産を誰々に相続させる」
という一行の内容のものです。これでは多くの問題が生じるだろうと思いますが、こういう遺言書は実際にあります。誰が考えてもまずいだろうと思うこのような遺言書ができてしまうのは、やはりそれなりに事情があるようです。

ですから、

  • 財産をリストアップ
  • 法定相続人を把握
  • 法定相続人ではないけれども遺産をあげたい人を指定
  • どのように分けるかを指定

というようなことをきちんと書くのは難しく、手間もかかるのが普通です。公正証書遺言であれば費用も高くなります。必要な資料を集めるのも大変なので、行政書士がお手伝いをします。

また、それで相続人たちが納得するのかということになると、さらに難しいでしょう。
ですから、遺言書は全員が書くようなものではなく、事情によってその必要がある人が書けばよいのです。

一部遺言

資産家ではないと思っている人にも財産はきっといろいろあります。不動産・預貯金・有価証券などがあれば、これらは遺言書にきちんと記載するのが普通です。

しかし、大きくて目立つのに意外と資産価値がない「故人名義の自動車」もあるでしょうし、その他、そこそこの値打ちのある絵画、骨董品、貴金属など、いちいち書ききれません。
そこで、細かいことには触れず、

「家と土地は、誰々に相続させる。」

と重要なことだけ書いておいて、あとの細かなものの配分は相続人たちにまかせよう、という遺言書があります。

このように、財産の一部だけを指定した遺言(遺言書)を「一部遺言」といいます。
細かなことだから書かなかったのではなく、書き忘れたとか、自分でも知らなかったという財産もあるかもしれません。

トラブルのあるところに遺言書あり

そもそも遺言書とは、遺産分割の協議で問題が生じそうな場合に作成されるのではないでしょうか。また、おそらく相続人たちが遺産相続でもめるはずがないと信じてはいるが、万一、トラブルが起きたときの用心に、指示をしておく人もおられるでしょう。

そこで、細かなことまですべて書くのは大変だから、大きな財産についてだけは遺言書で指定しておこうと考えがちです。
最も大きな財産である「現在住んでいる土地・家屋」についてだけ、誰に相続させるか書いておけば、ひとまず最も重要な点はクリアーすることになるとお考えなのでしょう。本当にそれで重要な問題は解決して、後に残っているのは些細なことならよいのですが、実際は更に事態を難しくするかもしれません。

相続人の考え

相続人は基本的には、平等・公平に相続したいと考えているでしょう。
もし「被相続人の住んでいた土地・家屋」が、ひとりの相続人のものなら、その他の財産の分配を工夫して、公平にしたくなります。価額によりますが、それが可能でしょうか。
遺留分寄与分特別受益・・・と考えていくと、とてもむずかしくなります。

自分がどれだけ相続する権利があるかにかかわらず、自分はたくさんの収入もあるのだから、財産を相続したいとは思ってもいない、という人もいますが、人によっては勤務先の倒産、自分や家族の病気・事故、生まれつきの「障がい」などがあって、法定相続分よりも多くもらいたい人もいます。

相続人も、上のように事情のある人には、他の相続人よりも多く財産を遺したいと思うかもしれません。

また、遺産を公平に分けるのではなく、自分にとってかわいい子にたくさん遺したい人もいます。
そんな不公平なことをするわけがないと思っている人も大勢いますが、たとえば、学校の先生にも、自分の気に入った子に良い成績を付けたり、何かと便宜をはかる人がいます。たいていは、「自分の気に入った生徒だけを特別に優遇しよう」とは思っていないようですが、自分の気に入った生徒が優秀にみえるので、「はっきりと数字には表われないけれども、良い面・才能・努力があるので、その良い面を評価することこそ教員の責務である」という使命感・正義感でやっているかもしれません。これは職場の上司にもあてはまるでしょう。同様のことが、被相続人・親にも起こりうるのです。

公共性のある場合には許されないとしても、遺言書なら許されるということもあります。遺言書は公共のものではありませんから、遺言者の「最終意思」を実現すればよいのです。相続人たちの対立を防ぐ義務があるわけではありません。一般的には、相続人たちが不満を持たずに、子孫が円満に繁栄していくような相続となるとよいでしょうし、「わがままを言ったり、自分だけ得をしようという相続人がいた場合の対策をしたい」のだろうと思います。

なかには、この子に相続させたくはないという事情のある場合もあります。「この子が気に入らないから」ということもありますし、遺産を残さない方が他の相続人のため、世のため・人のためになるから、という場合もあるでしょう。事情はさまざまです。

遺言書は不公平でよい?

極端な言い方ですが、

遺言書はある程度不公平でよい。」
遺言書とはそもそも不公平なものだ。」

という考え方もあります。

そもそも、何が公平なのかわからないことの方が多いでしょう。財産は均等割にできないことの方が多く、被相続人相続人との関係、相続人同士の関係には、長い歴史(関わり・人間関係)があります。財産と歴史を考慮していくと、
「どうするのが公平なのか」
がますますわからなくなります。

一例ですが、

相続人の住んでいた家には、同居していた長男が住み続けるので、その家と土地は長男が全部相続する。その代わりに、現金や有価証券を他の相続人に渡して、それで総合して公平になればよい、と考えても、そのようにはならないことの方が多いです。

長男の相続する家と土地はいくらなのか?
その家の価値は固定資産税評価額なのか、路線価なのか、それとも実際の取引価格なのか、ということも問題ですし、その家を長男が全部もらう代わりに、他の相続人は「もしその家を分割していたらもらえるはずだったのと同じ価値のものを他の財産からもらえるでしょうか。他に財産がたくさんあればよいのですが、実際にはその他の財産では、同額の相続分とはならないことが多いです。

そうしますと、その家は売却し、売却益を相続人が等分に分ければよいですが、親と同居していて、親が亡くなった後は、自分が住み続けられるのだろうと思っていた長男は、自分で新たに家を購入するか、賃貸物件に住むことになります。それで納得できるでしょうか。それが妥当でしょうか。

あるいは、その家は相続人全員で売却し、長男がそれを自分で購入すればよいのです。実際には、長男が他の相続人にマイホーム購入ローンを支払えば問題はありません。長男は「家の購入ローン」を他の相続人に支払いつづけることになります。現実的でしょうか? 価値観や判断基準も人それぞれですから、何とも判断できませんが、すっきりと解決するのでしょうか。

そこで、「相続人全員が完全に満足・納得することはあきらめる」とか、「被相続人の判断で決定する」という遺言書にたどり着くことがあります。

それでも、なるべく公平で、相続人が納得できるものがよいでしょうから、行政書士が事情に応じて遺言書の案を工夫・提案します。

武蔵小杉の行政書士

遺言書を作成する方は、専門家に相談する前に既にいろいろとお考えになっている方がほとんどです。遺言書はそう簡単にはできないことも感じておられるかもしれません。

行政書士は、事情をうかがって遺言書案を作成することもありますし、お考えになった遺言書を拝見して提案その他をさせていただくこともあります。
人生で、そう頻繁に作成することもない重要なものですから、一度は専門家に第三者としての意見を聞いてみてもよいのではないでしょうか。人のすることにはある程度のパターンがありますので、アドバイスを差し上げられるかもしれません。

彩行政書士事務所は、川崎市中原区に本拠を置き、東急東横線・JR南武線の交差する武蔵小杉、その隣駅の元住吉で面談している行政書士ですが、相続相談や遺言書に関しては、出張もよいと思います。相談中、必要な資料が自宅にある場合が多いからです。