相続の問題点

自分が、親子・兄弟姉妹と相続で不和になる理由があるかもしれないと思う人はご注意ください。不和にならなければそれでよいのですが、意外なところから心配事がやってきます。
思い当たることをいくつか書きだしてみました。

  • 家督相続の感覚が残っているから、ひとりがほとんど全部の財産をもらうことがある
  • 家を継いだ者には大きな義務があったが、今では義務については忘れられたし、義務の果たしようもない
  • 法律は個人主義を採用し、相続は公平に分ければよいとしているが、それが難しい
  • 不動産を大事にする人が多いが、等分には分けられないことが多い。分けられないものは尚更ひとりに集中させがちである
  • 法律が個人主義になったのだから、社会福祉(社会保障)が充実しなければならないはずだが、親の療養看護を子がしなければならないことが多い
  • 親と同居・療養看護しても、法的にはすべての子の相続分が同じ
  • 嫁が義父母の療養看護をしても、法的には相続分がない

一般の人の感覚と法律と実社会がチグハグで、それぞれの親子・兄弟姉妹に固有の「歴史」があるのですから、悩みのタネはあちこちにあるでしょう。自分にはそのような問題は一切ないと思っている人のほうが危険かもしれません。

法定相続どおりにしないほうがよい事情があるのでしたら遺言書を作成しましょう。

両親のおひとりが亡くなった場合、相続はいつするのか

相続の問題点はいろいろとあります。ここではその一例をご紹介します。

ご両親のお一人が亡くなって、配偶者がご存命の場合(つまりお父さんかお母さんの一方はご健在の場合)でも法律上は相続が開始します。亡くなった方の配偶者はもちろん、お子さんがあれば相続人となるでしょう。

しかし、たとえば、「お母さんが亡くなったから遺産分割協議をして、財産を分けましょう」とお父さんに言いだしにくいという方(お子さん)も大勢いらっしゃいます。お母さんが亡くなったので財産をください(私には母の遺産を相続する権利がある)、とは言いだしにくいのです。しかし、長い間、相続手続をせずに放っておくと、税法上の配慮を受けられなくなることもありますし、不動産や株の名義を変更しないと困ったことになるでしょう。

そういう場合にこそ行政書士にご相談ください。行政書士はそのような手続の専門家です。「お母さんが亡くなったので、いろいろな手続をひっくるめて行政書士に依頼しよう」とお父さんにお話してみるのはいかがでしょうか。行政書士は必要に応じて、税理士さんや司法書士さんと連携して業務を進めます。

相続の課税対象者

従来、相続に際して税金を支払う必要のある人は全体の4パーセント程度といわれていましたが、平成23年の相続税見直しの政策により、該当するケースは増えることになりました。「税金が高くなった」と言うと人聞きが悪い(?)ですが、「親が金持ちだから、子も自動的に金持ちになる」という制度を是正しようとしたのですから、喜んでいる人も大勢いるはずなのですが・・・。

土地・建物の登記は難しいケースもありますが、相続の場合は比較的簡単です。土地・建物の登記も登記所で書き方を教えてくれますので、最近はご自分でなさる方も多くなりました。登記所へ2・3度出向く覚悟があれば(もしかするともっと簡単に)できると思います。たいていの役所は結構親切です。

行政書士は相続業務の窓口となって、必要に応じて分業します。これをワンストップサービスといっています。いろいろご自分で手をつけて、頭が混乱してからではなく、初めから行政書士をお訪ねいただければスムーズです。

親が保証人になっていた

借金等の連帯保証人になっている場合、義務・債務は通常、相続人に相続されることになるでしょう。額によりますが、相続放棄を検討した方がよいケースもあります。

一般に、被相続人の一身専属のものは相続の対象になりません。慰謝料請求権、財産分与請求権などは請求されない間は相続されませんが、ひとたび請求されると相続の対象となるでしょう。

相続人が保証人になっていた場合、その保証債務の額が確定しているものは相続の対象となりますが、「身元保証」「限度額や保証期間を定めずに連帯保証」しているものは相続の対象となりません。

「根保証」は保証人(つまりここでは被相続人です)が死亡したときに主たる債務の元本が確定しますから、保証人の相続人は保証義務を負うことになります。

相続 老後 川崎

こんな話があったとしたら(老後と遺言と相続と)

さて、夕飯時。お嫁さんと姑、そして子供が夕食を食べ始めました。
孫のA太郎君は幼稚園くらいとしましょう。

孫:「ぼく、カレーじゃなくて、オムレツがいい。」

母:「うーん、じゃあ、今度ね。カレーをかけたから、オムレツは今日は無理ね。」

まだ幼いとはいえ、母親の言うことが論理的だと何となくわかっている様子。
母のB子さんに、姑が言います。

姑:「B子さん、A太郎はオムレツが食べたいと言っているんだから、食べさせてあげれば。私が若い頃は、ご飯の途中で子供が餅が食べたいと言えば、ご飯をついて、餅にしてあげたものよ。」

母:「そんなこと言ったって、ご飯にかけたカレーを取って、オムレツに作り直すんですか? 無理に決まっているでしょう。A太郎、今日は我慢ねっ!」

姑:「食べ盛りの子がオムレツがいいと言っているのに。大きくなれないわよ。」

この頃になると、母の言うことに納得しかけていたA太郎も、おばあさんという援軍を得て、

「やっぱりオムレツじゃないと嫌だ。」

とゴネて泣き出します。

B子さんとすれば、「おかあさん、おかしなこと言わないで」ということになります。
姑とB子さんの関係がギクシャクするのはもっともです。
ざっと考えても、以下のようなことが懸念されます。

  • 姑のもともとの性格に問題はないか、
  • 老人性の痴呆などがないか、(ご飯をついても餅になるでしょうか?)
  • 姑がいたのでは孫の教育に支障をきたす、
  • 姑と母が、このように言い合いをすると家庭内がギスギスする

もっともこの話は脚色してあってフィクションですので、そのつもりでお読みください。

  • 姑さんは若い頃、とても激しい性格で、人との争いが絶えなかったようです。
  • 年を取って、少し気弱になってくると、昔の自分の行動を反省しているようで、今ではトラウマではないかと思うほど過去の自分を気にしています。
  • ここで、老人性の判断力低下や勘違いが加わって、とにかく孫の希望を叶えてあげなければという優しい気持ちで一杯です。
  • また、B子にも、人(子)に厳しくするのではないと諭す〈さとす〉というまさに老婆心があるのでした。

こうなると、ひとつ屋根の下にみんなで円満に暮らすのが非常に難しくなります。
上の例で、悪いのは誰でしょうか?
あえて問題があるとすれば姑ですが、性格と年齢を考えると、一概に悪いともいえません。
では、この一家はどうすればいいのか?
大問題だと思います。

おそらく、ここまでくると、『私からみると』もうこの姑さんは遺言・遺言書を書く能力はありません。法的にはきっと問題なく遺言書が書けます。遺言書を書く能力がないと公式に判定されるというのは余程のことです。

私心を捨てて遺言を書きなさいとまではいいませんが、遺言書は戦国武将がお家安泰のために、公正無私に書くようなものであってほしいと思います。そうでなければ、自分の気に入った人にたくさんの財産をあげるという内容になります。子供にもそれぞれ事情がありますから、どれだけ親の面倒をみることができるかには差があるでしょう。その差を考慮した上で、公平な指示が出せるかどうかが問題です。
将来の相続人たちが、この姑さんのご存命のうちから仲が悪くなならいように気をつけたいものです。

そして、孫の教育を考えれば、姑さんと別居した方が、姑さんの息子とお嫁さんとA太郎くんは、平穏な毎日が送れるでしょう。それがいいのか、悪いのか。

子供の養育、介護などが問題ですし、もしかするとB子さん夫婦は、これが元で喧嘩しないでしょうか。
ギスギスしてくると、些細なことで揉めやすくなります。DVの問題などは大丈夫でしょうか。B子さんもA太郎くんを叩いたりしないでしょうか。いや、姑さんを叩くかもしれません。
リストラなどで、経済的に苦しくなると、ストレスは一層たかまります。
いろいろと心配なことがあります。

法に照らして、誰が違反行為をしているのかは簡単と言えば簡単にわかります。
しかし、現実はそんなことでは解決しません。ただ「とにかく仲良くせよ」といってもそれは無理です。
「一大事」になる前に、「事件」が起きる前に、少しでも良い方向へもっていけないでしょうか。

それには第三者の助けや、行政による対策も重要だと思います。
「泥棒をなくしたければ、まず貧困をなくせ」といったのは、英国の作家でしたか。「朱に交われば赤くなる」という言葉もあります。
人間に強い意志だけを要求するのは酷だと私は思います。「街の法律家」は、その点をいつも考えています。

このような例では、老後の療養看護(世話)を誰がするのか、療養看護をした人の相続分を増やすのか、相続分を指定するために遺言書を書くのか(良い遺言書が作れるのか)、遺産分割協議をするなら上のケースのB子さんは遺産をもらえるのか、など、考慮する点はたくさんありそうです。そういうことをどのタイミングで考えておくのかが重要でしょう。

法律の問題ではなく

「うちの親はたいした資産家ではなかったから、相続の問題など起きない」と考えておられる方は多いです。しかし、不動産や預金の名義書換などはどうしてもしなければなりません。相続税の多寡とは関係ないのです。そのときに遺産分割協議書をたいてい作成します。

さて、ある病院の会計で、係の人があるご老人に
「保険証をお持ちでしたら見せてください。」
と話していました。そのご老人は見せていましたが、
「私は正直にずっと保険料を払っているんだ。どうして文句を言うんだ。」
と怒っています。

係の人は、
「苦情を言っているのではなくて、新しい保険証が来ていると、3割負担から1割負担になっている人も多いので、念のため見せてもらったんですよ。その方が料金がお得ですよ。」
と説明するのですが、そのご老人は、さらに文句を言われたと勘違いして一層ヒートアップ。

よくある光景ですが、親がかなりの高齢で亡くなり、相続人もかなりの高齢となると、遺産分割協議などで上の例のように、まったく言っていることが行き違って混乱することがあります。

ご老人の中には認知症とまではいかないけれども、理解力・判断力に問題のある方がかなりおられます。理解力が落ちているとしても、穏やかに、朗らかに年をとられる人もいますが、そういう人は比較的少なく、イライラしている人が多いようです。このご老人も係の人から何か言われるたびに、「文句を言われた」と感じるようです。

家族、親族だけで集合して協議をすると、遠慮がないだけにこのようになりやすいといえます。また、一般常識からはずれた判断をする人が相続人の中にいると、上記と同様、揉める原因がなく、法律上の争いもないのに、話し合いが難航するでしょう。遺産分割協議書をどのように作成するかという問題以前の話です。

そういう心配がある方は、初めから専門家に相談しておいた方がよいと思います。相続は商取引のように損得勘定ではありませんし、法律の勉強のように教科書どおりでもありません。相続は、人の生き方・実生活の問題とでもいったらよいのかもしれません。状況が複雑なうえ、人柄によっても大きく違ってきます。専門家に依頼してもすべてうまく進行するとは限りませんが、多少なりともお力にはなれるでしょう。

このように相続を考えるタイミングを見極めてください。