広域交付

どなたかが亡くなると法律上は自動的に相続が開始します。遺産を法定相続人がとりあえず共有することになります。通常はその後、相続する権利のある人たちが遺産分割協議をして正式に相続分を決めます。

その際、相続する権利のある人が誰なのかを特定しなければなりません。配偶者や子がいないと、親とか亡くなった人の兄弟姉妹を探したりします。

兄弟姉妹が亡くなっている場合には、その人の子が法定相続人である可能性が高いですから、生前に交流がなくても遺産分割協議の連絡をします。

その連絡をするために、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本を集めて、法定相続人全員の戸籍や住民票などを取り寄せて、手紙で事情を説明するということが必要でした。

戸籍謄本を入手する

相続権のある人を探すには戸籍謄本が必要です。戸籍謄本を集めるには、死亡時の本籍地で取得した戸籍謄本に、どこから本籍を移転したかという情報がありますから、これを元に以前の本籍地の役所に戸籍謄本を請求しました。そのように入手した戸籍謄本にさらに古い本籍地があれば、またその役所にある戸籍謄本を取り寄せる、という作業を繰り返したのです。

戸籍謄本はその役所まで受け取りに行ってもよいし、郵送でも取り寄せることができます。行政書士は所定の申請書を提出すれば、職権で依頼人さんの戸籍や住民票を取り寄せることができるのですが、昔の居住地が現在どの市区町村の管轄なのかを調べたりします。

人によっては離婚歴をわかりにくくするために、本籍を何度も変えることもあります。郵便の配達に以前より時間がかかるようになったので、一箇所の役所に郵便で請求して、郵送で送られてくるまでにかなり時間がかかるようになっていました。

昔の戸籍謄本

古い戸籍謄本の字が筆で書いてあるので読みにくいということもありますが、女性の名前に「変体仮名」が使われていると読めないことがあります。変体仮名の見本表を見ながら、どの文字と一番似ているか照合したりします。名前がわからないと戸籍請求の申請書が書けませんから、申請書に戸籍謄本の名前をコピーして氏名欄に貼り付けたりしました。

戸籍謄本の発行手数料

郵送ですと申請手数料を支払うのに「定額小為替」というものを郵便局で購入します。私が業務を始めた頃は、額面額に関係なく1枚が50円でしたが、だんだん値上がりになって現在は200円です。これは購入から6か月が有効期間です。

ですから、たくさん購入してしまうと期間内に使い切れなくて、払い戻しをしてもらいます。額面の金額はもらえますが、もちろん手数料の200円はムダとなります。

このムダになった手数料をお客さんからいただくわけにはいきませんから、購入しすぎると損金になります。というわけで、6か月間で使い切れるような枚数を郵便局に行って、必要なだけ申込書に記入して購入していました。

長々と書きましたが、要するに戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を確定するには、かなりの労力と時間を要したわけです。

広域交付

令和6年3月からは「広域交付」が行われるようになりました。広域交付とは、

最寄りの市区町村の役所で戸籍証明書を申請すると

コンピューターを使って法務省を経由し

かつて本籍を置いた役所の戸籍情報を

申請地の役所に届けてもらえる制度です

ということは、大げさに言うと、上に長々と書いた手続きがなくなるので、戸籍証明書が早く安く手に入るのです。

依頼者さんに、お近くの役所で戸籍を取得してきていただくことになりますので、相続手続きのうちのかなりの行政書士業務が不要となりました。

しかし、他にも戸籍等が必要になることがあります。それは行政書士が職権で取得しますので、従来の作業が全部なくなったわけではありません。

広域交付について、川崎市のホームページをご参照ください。

 

「郵便物は、近い地域なら翌日届く」というのはいつ頃までだったでしょうか。ですから役所に戸籍謄本を郵送で申請しても往復5日くらいということもよくあったのですが、近頃は10日とか2週間とかかかっています。

広域交付になって、たくさんの戸籍謄本を集めるのですから、以前と比べて役所での待ち時間は増えるでしょうが、郵送に比べれば圧倒的な早さです。

相続手続きと遺言書

今までは相続手続きの際に、まず亡くなった方、あるいは依頼人さんの戸籍謄本をお持ちいただき、それを元に戸籍謄本を集めていましたが、今後は広域交付を利用することになるでしょう。

広域交付で取得できないものについては、従来どおりこちらで取り寄せます。

遺言書作成の際もたいていは同様に戸籍謄本が必要です。