相続

配偶者居住権と善管注意義務

昔の家制度で家督相続(跡目相続)をした家長(戸主)がすべてを前の家長から受け継ぎました。たいていは長男です。次男・三男となると結構つらい人生をおくった例があるようです。

ただし、家長となると責任の重さも相当なものだったようです。職場で「上司が責任を取れ。」というようなものと似ているでしょう。次男・三男が不始末を起こしたときには、家長が後始末をしなければなりません。もし妹がいて、結婚する場合などは持参金を持たせることも必要でしょう。持参金とは結婚祝い・ご祝儀ではありません。長男が家長であれば、母の世話・看護等も家長の責任です。当然、同居して世話をしたはずです。

 

法律が変わりましたから、父が死亡すれば、父についての遺産相続が開始して、配偶者である母の法定相続分は、父の全財産の2分の1、残りの2分の1を子供たち全員で均等に分けることになります。もっとも、相続人全員が納得すれば法定相続分どおりに分ける必要はありません。

夫が死亡した場合の妻

ここでの説明の都合上、極端な例ですが、父がお金はほとんど持っておらず、住んでいた家は結構豪華だったとしましょう。父が80歳で病没したら、母もかなり高齢でしょう。その住んでいた家を長男がひとりで相続して、母の面倒をみながら生活していくのなら何も問題はありません。(自分の仕事と母に対する療養看護が現実に両立するのかという問題はあるでしょう。)次男がいるとして、その次男も同じ家に住んでいて構いません。

 

しかし、長男も次男も実家とは別のところに住んでいて、民法の規定どおりに父の財産を分けて、遺産をもらいたいということになると、とても困るでしょう。

遺産はかつてみんなが住んでいた土地・建物がほとんどです。高齢の母はまだ住んでいます。この家を3人で分けなければなりません。建物を切り分けるわけにはいきませんから、「お金」で解決することになります。売却してお金に換えます。おそらく3人とも結構多額の金銭を得ると思いますが、母はこの家にもう住めません。高齢になって住み慣れた家を去ることはかなり健康に良くないといわれていますし、賃貸マンション等の貸し主としては高齢者や障碍者を受け入れを躊躇する理由があるのです。

実際、困った例をいくつも知っています。が、上の例のように、お金はないが豪邸があるということはあまりないかもしれません。

配偶者居住権

こういう母を救う方法として配偶者居住権という制度ができたと考えればわかりやすいと思います。もう少し詳しくは【配偶者居住権】をご参照ください。

 

家督制度は不公平で非常に悪い制度だったという人もいますが、良い点もあったし、時代(経済状況や生活様式)に合うように自然に生じた制度だと思います。ということは、時代が変われば変化せざるを得ない制度だったのでしょう。

ある歴史家の言ですが、いつの時代もまったくの地獄のような社会はなかったし、まったく天国のような社会もないそうです。

自分の家に住み続ける

配偶者居住権という生涯無料で住み続ける権利もお金に換算して考えることができます。住み続けるための権利ですから、実際は現金化(売却)はしないでしょうが、もし現金化するといくらなのかという評価額はあります。たとえば、8千万円の家(多分、土地付きです)が、

  • 母の有する配偶者居住権  4千万円
  • 子供たちの有する所有権  4千万円

のように分けられる可能性があります。

子供たちの有する所有権は、負担付所有権で、母が一生涯居住することのできる権利の付いた所有権ですから、完全に自由にはなりません。ただし、母が亡くなってからは、完全に自由な所有権となります。

善管注意義務

配偶者短期居住権を得た母は、居住することはできますが、もともとここに住むために設定した権利ですから、この権利を譲渡することはできません。また、居住する母にとってはお気の毒なことかもしれませんが、所有権は子供たちにあるので、母は善管注意義務を負います。善管注意義務とは、大雑把に言いますと、管理人のようにきちんと家を守るということで、自由気ままに扱ってよいということではありません。つまり、通常の使い方はできるものの、大改築をしたり、一部を勝手に壊したりということをしてはいけません。しかし、将来的に家が子供たちの手に無事に渡ればよいので、子供たちの同意を得て、家の一部を人に貸して賃料を得るというようなことは可能でしょう。

母が住んでいることを知らないまま、この家を購入する人がいると困りますから、配偶者居住権の登記をして第三者が知ることできるようにしておきます。

母としては、自分がずっと住んできた家なのに自分の一存で一部を喫茶店に改造して人を雇って営業するというわけにはいかないので不満は残るかもしれませんが、母にとっては良い制度だと思います。子供たちにとってはどうなのでしょうか。