相続

配偶者居住権

配偶者居住権と配偶者短期居住権についてご説明しようと思います。

たとえば父母と子供2人の4人家族で、父が亡くなったとき、葬儀はもちろんですが、準確定申告(相続開始を知った日の翌日から4か月以内)などをしなければなりません。悲しんでいる時間もないくらい、いろいろな手続きが必要です。

亡くなったと同時に「相続開始」となります。法的には、亡くなった人(被相続人)の財産が相続人へ移ります。

相続人がひとりでないなら、遺産を分ける「遺産分割協議」もすることになります。会議室でする必要はありませんが、誰がどのように相続するか決めなければなりません。

法定相続分というものがありますが、遺産分割は、

  • まずは遺言書、
  • 遺言書がなければ、遺産分割協議で、
  • 遺産分割協議で疑問等があれば、法定相続分を参考にして、

する人が多いでしょう。

夫婦の収入がまったく別で、婚姻共同生活のために、毎月、各人が一定額を夫婦共同の口座に入れておくという夫婦も増えていると思いますが、現在、高齢の夫婦には、まだそういう人は少ないでしょうか。

法律どおりに分けますか

父が亡くなって、遺産をリストにすると、ほとんどが父名義で、母(妻)は父名義の財産を共同で使っていたということがよくあります。

夫婦が事実上一体となっていて、ふたりの間では、どちらの名義でも「ふたりのもの」だったと思われます。未成年の子供たちがいれば、その財産を子供たちが自分の判断で使うことはないでしょうが、家族が一体となっているのだと思います。

父の相続手続きのために、財産をリストアップして、法定相続分のとおりに、妻が2分の1、残りの2分の1を子供たちで均等に分ける、ということをするのは、すでに片親が他界し、もうひとりの親が亡くなったときではないでしょうか。

私の父母と相続

私の個人的なことを言うと、私の母が父よりも先に死亡しました。母は専業主婦でしたから、特に収入はありません。しかし、夫婦はその財産が平準化していると相続税がかかりにくいようなので、相続税対策のため(?)に母名義の財産もそれなりにありました。

母の相続について、父が2分の1、子供たち全員で残りの2分の1になるように分けるの?と、遠慮がちにちょっと父に聞いてみましたが、父は大変怒りました。

「金は俺が稼いだ。お母さん(妻)は俺を支えたから共通の財産だ。お前たち(子供たち)は、稼ぐどころか育ててもらったのだ。親がふたりとも死んだ後は、財産を相続して有効に使ったり、子孫にさらに遺してもらいたいが、お母さんが死んで、その財産の半分をなぜお前たちにやらなければならないか。」ということです。

法律書に書いてあることとは違いますが、まぁ、予想どおりの反応でした。【親に言えない】もご参照ください。

もっとも、後から考えると、父が「お母さんの相続だが、預金が XX 円あるから、お前に XX 万だけあげておく。その他の遺産は、俺の死後に考えなさい。」とでも言われていれば、かなり印象は違ったでしょう。

これは、私の家族のことであって、家族によっては、本当に法律書に書いてあるとおり、法定相続分で分けるようです。

私の家族と同様、父が亡くなったからといって、母が2分の1、子供たち全員で残りの2分の1で分けるわけにはいかないという家族も多いです。

 

 

ついでですから書きますが、我が家の暗黙の了解で、家は長男が継ぐ、ただし、親の面倒を看た子が多くの財産を手にする、ということでした。暗黙の了解なので、そのように確定していたのかどうかはわかりません。私の勘違いがあるかもしれません。

また、多くの家庭でそのような「暗黙の了解」があるのではないでしょうか。しかし実は、暗黙の了解になっていなかったり、事実関係を正しく認識していなかったり、相続の仕方によって数千万円多くもらうか少なくもらうかという問題に直面すると、相続人の考えの相違が表面化してくるのだと思います。

 

家族によっては、父が亡くなったら、その全財産を母がひとりで受け継ぎ、母が亡くなってから、子供たちで「父と母の財産を総合して分割しよう」というような口約束をしておくことがあります。

実際、母が亡くなってから、「総合的に」もちろん「公平に」分けようとすると、実はそうはいかなくなったということがよく起きます。法律どおりにもいかないし、口約束どおりにもいかないことがよくあります。

法律がおかしい

多くの人の実生活と法律が乖離しているのはよくないでしょう。実生活と法律を近づけよう、現行法でおかしいところを修正しようというのは当然だと思います。ここでは「遺された配偶者の住むところ」の話です。

上に書きましたように、たとえば夫に先立たれた妻の財産をどうするかというのは大問題です。「夫」と「妻」を入れ替えて読んでいただいても同じです。

遺産が以下のような場合、

  • 自宅:7千万円
  • 現金:1千万円

を妻と子供2人で

  • 妻 :4千万円
  • 長男:2千万円
  • 長女:2千万円

で分ければよいことになりますが、妻はどこに住むのでしょうか。

自宅をもらってしまうと、法定相続の額を3千万円超過してしまいます。自分がもともと持っている財産から3千万円をだして、長男と長女に分ければよいことになります。要するに、相続する4千万円に手持ちの3千万円を足して、自宅を全部買い取るわけです。

もし、妻に3千万円の資力がなければ、7千万円の価値のあるこの自宅に住むことはあきらめて、相続した4千万円を使うなどして新しく自分の家を買うことも可能でしょう。

あるいは、長男と長女が、母(被相続人の妻)に4千万円分の相続はさせるが、この家に住むことに反対するかもしれません。

さらに、夫が遺言書で、この7千万円の不動産は長女に相続させると指示していることもあるかもしれません。

夫を亡くした妻が、その後、どこに住んだらよいかわからない、住む場所がないという問題に直面することがあります。被相続人の妻(母)と子供たちの仲が悪いとか、妻は、被相続人(父)が亡くなるほんの少し前に再婚した後妻で、子供たちとはほとんど交流がないなど、いろいろな理由は考えられます。

 

 

配偶者短期居住権

令和2年4月1日より前ですと、配偶者が,相続開始時に被相続人の建物に居住していた場合には、原則として、 被相続人と相続人との間で使用貸借契約(無償で使用してよいという契約)が成立していたと推認することになっていますが、この居住建物が第三者に遺贈されるとか、それどころか、被相続人が、居住建物は妻との間で使用貸借契約はしていないと明言している可能性もあります。

そうなると、遺された配偶者は住む場所を失ってしまうかもしれません。そこで、

配偶者は、相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、 以下の期間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得する。

 ① 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6か月間は保障)

 ② 居住建物が第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6か月

という制度です。簡単に言いますと、自分の配偶者の相続開始から最短でも6か月間は無償で住んでいてよいということです。

令和2年4月1日より前の法律では、居住建物が夫の所有物だと、妻を無償で住まわせてあげていたということになります。(こう聞いたら、この「妻」はきっとかなり怒ったでしょう。ただし、ここで「夫」と「妻」を入れ替えて読んでいただいても同じです。)

住居賃貸業をする

上で、配偶者に先立たれた妻(夫)は少なくとも6か月間は、それまで住んでいた自宅に住み続けられるのですが、

「経済的にも苦しいので、その6か月間、空いている部屋を「下宿屋さん」として、若い学生さんに貸して家賃収入を得よう。朝・晩2食付きなら台所も有効活用し、食費も経済的だ。」

というように、収益をあげるようなことはしてはいけないのが原則ですからご注意ください。

遺された配偶者は、被相続人の生前に、居住建物の一部しか使用していなかったときは、配偶者短期居住権によって使用できるのは、その部分だけです。

 

 

配偶者居住権

配偶者に先立たれた人がどこに住むかという関連の話ですが、上に紹介した配偶者短期居住権とは異なります。具体例を作ってみました。

  • 太郎さんは、花子さんと結婚し、一郎が生まれました。一郎さんはもう成人です。
  • 太郎さんと花子さんは離婚しました。
  • その後、太郎さんは夢子さんと再婚しました。
  • 夢子さんには、太郎さんとの間に生まれた子ではない子がいます。
  • 太郎さんと夢子さんの住んでいる家は、太郎さんの所有です。
  • 太郎さんは、自分亡き後、この家に夢子さんがずっと住めるとよいと思っています。
  • その後、この家は一郎さんのものにして、一郎さんがここに住んでも、あるいは売却しても自由にしてよいと思っています。

この希望を実現する方法として、配偶者居住権があります。

配偶者居住権のわかりやすい設定の仕方

配偶者居住権は、上の例でいうと、夢子さんが行使する権利です。夢子さんが住んでいたのは太郎さん所有の自宅ですが、太郎さんがすべき手続きはとりあえず「遺言書を作成し、以下の意思表示をする。」と覚えておくとわかりやすいでしょう。この記事の下の方にもう少し詳しく書いてあります。

  • この自宅を一郎さんに相続させる。
  • この自宅の配偶者居住権を夢子さんに遺贈する。

配偶者がずっと無償で住める

配偶者居住権とは、

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利で、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができる。

というものです。

この事案ですと、この建物は一郎さんのものです。しかし、夢子さんに配偶者居住権があるので、太郎さんの意思次第で、夢子さんは一生涯、その「一郎さんの所有である建物全体」を「無償で使用収益」することも可能です。

夢子さんにとってはよい法律ですが、一郎さんにとってはどうでしょうか。特に、夢子さんと一郎さんの仲が良くないなどの事情があれば、一郎さんとしては好ましくないかもしれません。

注意点がいくつかあります。

  • 太郎さんが死亡したときに、夢子さんがこの建物以外のところ(たとえば、老人福祉施設など)に居住していた場合には、配偶者居住権を取得させることはできない。
  • 太郎さんが遺言書で指定する以外にも、遺産分割協議・死因贈与契約・審判・調停で配偶者居住権を取得することも可能。
  • この居住建物が、太郎さんと第三者の共有である場合は、夢子さんは配偶者居住権を取得できない。
  • 配偶者居住権は、特別受益のように計算する。所有権を相続するよりも評価が低いので、建物以外の財産をより多く相続できる可能性がある。
  • 配偶者居住権の存続期間は、終身の間だが、遺言・遺産分割協議・審判等で、別に定めることができる。
  • この居住建物に配偶者居住権についての登記をする。
  • 夢子さんが、一郎さんに無断で増改築や転貸をすると、配偶者居住権が消滅する可能性がある。

配偶者居住権の場合も、やはり遺言書を作成しておくことをお勧めします。相続開始後、まさかと思うようなことが起きるのが相続です。遺言書を作りましょう。