現金と不動産

例えば親が3千万円を遺して他界したとすると、兄弟2人でその3千万円の分割をめぐって揉めることは少ないと思います。

相続が争族になるということを耳にしますが、現実にそういうことが起きるのはどんな場合でしょうか。当然、さまざまなケースがありますので、ここに挙げるのはほんの一例です。

例1:預金と不動産

相続財産が、1500万円の預金と1500万円の価値の自宅不動産の場合はどうでしょう。

多くの場合、自宅用の土地建物はひとりで相続します。相続人が2人の場合、ひとりが預金、もうひとりが土地建物をもらえば金額的には同じになりますから、理論上はそれで公平なはずなのです。では、現金をもらうのと土地建物をもらうのと、どちらがよいでしょうか。

この土地建物にひとりの子と親がずっと前から同居していて、これをその子が相続して住み続けるようなケースでは、別の問題があるかもしれません。どういうことがポイントかというと、

  • おそらくその子は、これまで家賃を払わずに長期間住んでいたので、家賃分の生前贈与を受けていたと考えられないか。
  • その子に十分な将来の生活資金や収入がない場合、何か配慮をしなくてよいのか。

というようなことです。

例2:1億円のマンション

相続人が兄弟2人だけで、自宅と1億円相当の賃貸マンションを親御さんが敷地内に残してなくなったとするとどうでしょうか。これは協議が難航するかもしれません。

共有したら

共有にしておいても法的な問題はありませんが、将来的に使用収益の方法などで意見の不一致が生じることがあります。さらに次の世代に相続が発生すると、その不一致の可能性はさらに高くなります。

一方、相続を先延ばしにしておくと、将来、法定相続人の数が増えて、ひとりあたりの法定相続分が少なくなるので、自分の相続分を強く主張して争う可能性は低くなる可能性もあるでしょう。

不動産を単独で相続

不動産を単独で相続するというのは、その不動産をひとりだけが受け継ぐということです。

兄弟ふたりが相続人で、1億円相当の不動産をひとりが相続したら、もうひとりには5千万円(代償金)を支払えばよいことになりますが、この5千万円を工面できずに相続手続きが進まないかもしれません。

もし5千万円をローンで借りてきて代償金を分割払いにすると、この賃貸マンションから何かの事情で収益があがらない場合、もうひとりの相続人は代償金を満額もらうことができなくなる心配があります。マンション経営の失敗とか社会事情の変化などで予定どおりの収益があがらない可能性があるからです。その損失を他方の相続人もかぶってしまってよいのでしょうか。分割払いにしなければよかったと後悔するかもしれません。

代償金で

代償金の5千万円を現金一括でもらった人は、才覚・手腕がないかぎりこの5千万円を資金として財産を増やすことができません。

一方、賃貸マンションを受け取った人は社会事情の変化や大きな失敗がなければ従来どおりの営業をしていくだけで利益をあげる可能性は高いです。しかし、代償金として他方の相続人に渡す5千万円を銀行借り入れしたとすると、この返済もかなり大変でしょう。修繕にかかる費用とか、建て替えにかかる費用を積み立てておかなければならないでしょうから、収益イコール利潤ではないわけです。

そういうことを考えると、評価額1億円の賃貸マンションを兄弟ふたりで均等に相続するのは、人によって価値観も違いますので、結構むずかしいと思います。

相続不動産を売却

シンプルなのは、そのマンションを売却して代金(1億円)を分ける方法です。換価分割といって、かなり明確で公平な分け方ができると思いますが、これで全員が満足するのかというと、あまりそういうものではなさそうです。

結局どうしたら?

結局どうすればよいのかですが、誰でも納得する良い案がないから争族になるのでしょう。裁判所のお世話になれば、納得できなくても諦めはつくかもしれません。

遺言書で指示しておくとよいケースもあるでしょう。

共有していると、運営や管理で意見の相違が生じるかもしれないから不動産はひとりで相続することが多いと書きましたが、半分ずつ共有している仲の良い兄弟を私は知っていますので、共有がいけないとはいえません。

相続財産の事情によっても、相続人さんの考え方によっても、相続人さんの収入や生活環境などによってもさまざまです。だから苦労が多いわけですが、事を荒立てないように注意しながら、自分の希望を申し出てみることをお勧めします。法律書やネットで調べたことと違うから言い出せないという人が結構おられますが、相続人全員の率直な意見をまず集めてみてはいかがでしょうか。

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