遺言書と遺産分割の禁止

遺言書はいつ作るのか

「あなたのお母さんの命は、早ければあと1か月、長くても半年ですから、もう治療よりもホスピスのようなことを考えた方がよいと思いますよ。」

と医師から告げられたのは3月でした。

 

母を車に乗せ、桜並木のきれいな道を走りました。ふたりとも何も話しませんでした。

ひと言でも話してしまうと、「これが最後」という言葉につながってしまいそうなので、ひと言も発することができませんでした。

すでに自分が癌だと知っていた母も、思いはきっと同じだったのでしょう。

 

ところが、母はそれから5回、桜の開花を見ることができました。

とは言っても、自宅療養はもちろん、小さな病院では1週間ももたないといわれていましたから、大学病院の高度治療を受けながら寝たきりでした。窓の外には桜の木もありました。それが目に入ったかどうか。きれいだと思ったか、あれから5回目の桜だとわかったかどうか・・・。

 

母の遺言書はありませんでしたが、家族に遺す言葉のようなものはありました。

「夢の中で、空にこういう字が出てきた。」

と言って、下のような字を説明しました。

 

 

そんな字はないと言いましたが、おそらく「傘」のことなのでしょう。

『みんな、ひとつの傘の下のように、仲良く暮らしなさい。』

ということだろうと思います。

 

一般に、早く遺言書を作成した方がよいことは、このホームページのあちこちに書いています。

余命宣告されてから書いても間に合うとは思いますが、急な事故や発作で亡くなることもあるのですから、本当は、今日これから外出する前に書いた方がよいかもしれません。

遺言書の作り方

自筆遺言(自筆証書遺言)の場合は、年齢や病気のため気力・体力がなくなってくると、非常に文字を書くのが大変です。まして、きちんとした文章を考えたり、どう書くのか調べたりするのは困難です。やはり、元気なうちに書くべきでしょう。

高齢の方や病気の方の場合、実際の手続きは次のような流れになることが多いです。

  • ご本人か信頼できる身近な人が行政書士に遺言書の内容を伝える
  • 行政書士が書面にしてご本人に内容を確認してもらう
  • 必要に応じて修正し、ご本人が納得できる内容にしてから公証人さんと連絡をとる
  • 証人が立ちあって、公証役場で作成する(あるいは出張してもらう)

 

令和2年7月10日からは法務局で遺言書の保管をしてもらう「遺言書保管制度」があります。行政書士に遺言書の内容を伝えて、行政書士が文面を調え、ご本人に内容を正確に伝えて、必要に応じて修正し、ご本人が自書して法務局に提出するという流れになります。

自筆遺言証書(自筆証書遺言)ですが、この場合は裁判所の検認は不要です。自筆遺言作成のための資料・必要書類は、公正証書(公正証書遺言・公正証書遺言)の場合ほど多くないことがほとんどです。公的書類や資料をたくさん集めなければならないとなると遺言書を作成するのが億劫になるでしょうから、ケースによりますが、自筆遺言なら作成が楽になり、遺言書を作成する人が増えると思います。

適切な内容の遺言書を遺してくれると、相続人たちは手続きがスムーズに進んで、仲良く相続でき、後世の人たちが幸福に、そして繁栄するはずなのです。

遺産分割の禁止

冒頭に書きましたように、たとえ余命宣告されたとしても遺言書作成の期間が何年もあるかもしれません。逆に、今は元気でも不慮の事故に遭うことも考えられますから、自分の最後の時がいつなのかはわからないわけです。

相続開始が半年後なのか10年後なのかによって、書きたい内容が異なることもあります。たとえば、遺産分割をする時期について指定したい場合です。遺言書で相続開始から5年を越えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。よくあるのは、相続人の△△さんが何歳になるまでは遺産分割を待ってほしいというようなことです。

私は、私の遺産全部について、その分割を相続開始の時から5年間禁止する。

ただし、私の次男である二郎が成年に達した時は、私の遺産の分割を行うことができるものとする。

とりあえず5年間禁止しますが、5年経過しなくても禁止する理由がなくなれば分割してよいと指定できます。

この例では、遺産全部について禁止してありますが、遺産の一部についてだけ分割を禁ずることもできるとされています。ただし、この場合は禁止の対象となる遺産が特定されている必要があると考えておいた方が無難そうです。

諸説あったり、議論になりそうなことは、なるべく初めから処置しておくとよいと思います。

ひな形

上のようなひな形を参照して、後半を

「ただし、私の次男である二郎が定職に就いて、真面目に生活するようになった時は、私の遺産の分割を行うことができるものとする。」

と書いたとします。

二郎さんがまじめに働かないので、遺言者である父親は心配していました。高収入でなくてもよいから地道に働いて、しっかりと家庭を持ってもらいたいと望んでいました。きちんと働くようになるまで、親の財産(結構多い)を手にしては二郎さんのためにならないと考えていたとします。

もし遺言者さんが、上の例のように書くと、おそらくこの後半部分は無効だろうと思います。

ひな形を参照して少しだけ自分でアレンジしたために、自分の希望するようにならなかったということは珍しくありません。内容証明郵便を自分で送る(作成する)のにひな形を少し変更して、その結果、自分に不利になるということもよく起こります。

遺言書に従わない

上の例のように、遺言書で一定期間遺産分割をしないように指示されていても、それが相続人の利益のためであることが明らかであれば、共同相続人全員の合意によって遺産分割を実行することができると解されているようです。

遺言する人は、その遺産分割の禁止が守られるようにするために、あるいは場合によっては守らなくてよいことがわかってもらえるように、遺産分割を禁止した理由を遺言の付言事項などで明らかにしておくことをお勧めします。

 

彩行政書士事務所では、遺言書の付言事項などを特に重視しております。付言事項が不要ということもありますので、遺言書を作成する際は一度ご相談ください。

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