特別受益相続

兄弟姉妹の不公平と相続

たとえば父や母が亡くなって、相続手続・遺産分割協議をしていると、その家族の歴史が問題になります。歴史というと大げさですが、要するに「昔のこと」「何十年も前のこと」「両親が結婚して、子供が生まれて、育っていく過程での出来事」です。それが何十年か後の相続で問題になることがあります。

兄弟姉妹には個性がある

たとえば、兄弟姉妹のうち、スポーツ教室にずっと通い続けた子と、入会してみたもののすぐにやめた子がいるというケースもあるでしょう。あるいは、小学校から大学まで私立学校だった子と、公立学校にかよって高校卒業後は専門学校だった子がいると、必要だった学費にはかなり違いがあります。このように、子供たちに均等に養育費・教育費がかかっていないことはよくあって、それが「過去の不公平」として記憶に残っていることがあります。不公平感はあるものの、確実な数値や金額で表せないことがほとんどでしょう。

費用のあまりかからなかった子は、その費用の違い(差額分)を、相続(遺産分割)の際に精算すべきだと考えるかもしれません。つまり、差額分を自分が相続する財産に上乗せしてもらいたいという主張です。

親としては、どの子もスポーツ教室にかよわせたかったのだと思いますが、本人の好みもあるし、才能等にもよるでしょう。親は、どの子も同じ私立小学校に入学させたかったのに、ひとりは合格し、ひとりは合格しなかったとなると、養育・教育に関しては親に落ち度はなかったのだと思います。

しかし、上の子には教育熱心で、下の子は比較的放任主義だったなど、育て方にも違いがあったことも十分考えられます。不公平にしたつもりではなくても、結果的に教育費に大きな差が生じたことは確かなのです。親とそれぞれの子との相性もあるようです。

感情の問題は金銭問題に

どの子にどれだけ費用をかけたかという、どちらかといえば過去に重点を置いた考え方をせずに、自分は将来に向かって頑張ればよいのだから、相続額などは大らかに決めればいいという人もいます。

しかし、学歴・知識・技能と職業・就職先の関係で、兄弟姉妹たちの生涯収入にも差が生じそうだということになると、過去の問題ではすまされなくなることがあります。

これまでの生活の「公平」とか「親から受けた愛情」の問題にもなり、こういうときの遺産分割協議はお金をめぐる協議というより、家庭内での親子・兄弟関係についての議論になりがちです。

家族内の過去の問題は感情的なものが多いですが、結果的には相続額に反映させることになるでしょう。相続ではなく一般社会生活での問題でも、感情や正義・公平という問題の結末は、金銭・金額の問題になるのが普通です。

自分の考えでなく法律で

遺産分割は相続人全員の意見が一致すれば(ときどき、税金などの都合で、思いどおりの相続ができないことがありますが)、だいたい希望どおりに分けることができるものです。法定相続分より自分たちの意見の方が優先されます。

しかし、過去の問題が解決できそうもなくなって、かなり険悪な雰囲気になってしまうと、もう自分たちの意見はいわずに、「法律(法定相続分)のとおりに分ける」と決めるケースもよくあります。

また、各人が自分の意見を言うとカドが立つかもしれないので、はじめから自分の意見は出さずに、法律の規定どおりにしておこうという人たちもおられます。

生前贈与など

遺産分割協議で問題になるのは、教育費だけではありません。兄弟姉妹のひとりが自分の会社を起ち上げるときに親から資金援助してもらったとか、自家用車を買うときにお金を出してもらったとか、婚姻のときに(名目はともかく)お金をもらった、自宅購入資金の一部を出してもらったなど、いろいろな過去の出来事があります。

相続人に、「遺贈」「婚姻」「生計の資本」などとしてお金をあげると特別受益とされ、これは生前贈与とみられます。特別受益があれば、相続時の持戻しの問題が生じます。遺留分侵害額請求の問題にもなり得ます。

学費

上の例の学費ですが、特別受益になるのかという疑問をお持ちの方がよくおられます。つまり学費は生前贈与といえるのか、学費は「生計の資本」に入るのか、ということです。

普通教育以上の学費については家庭によって異なり、親の資産や社会的地位に応じて、その家庭の子がどの程度の高等教育を受けるのが自然かが問題になるとされていたようですが、現在ではどうでしょうか。また、高等教育以前の学費についても相続人全員が納得できる結論が出るでしょうか。

 

 

法改正

令和元年7月からの法律では、特別受益は10年前までしかさかのぼらないことになりました。「自分たちの意見ではなく、法律のとおり」にするのでしたら、遺産分割協議が簡単になるケースが増えるでしょう。

学校を卒業するのが20代前半として、親の相続をするとき子供たちが40歳とか50歳になっていれば、学費その他の幼少期の費用の不公平は問題になりません。

30歳のときに結婚して、相続人になるのが50歳なら婚姻時のお金のやり取りは問題になりません。

ずいぶん大胆な法改正(法律の変更)をしたものだという気もしますが、以前の法律でも過去の金銭授受は結局、明らかにならないケースが多かったので、現実的な法律になったとも感じます。実際には以前とあまり変わりがないとも言えるかもしれません。また、「自分たちの意見ではなく、法律のとおり」にするつもりであれば、あきらめがつくというか、納得しやすいとも思います。

相続トラブルの防止

もし、兄弟姉妹の育て方に不公平があったのではないか、育て方のせいで子供たちが将来不仲にならないかと親御さんが悩んでおられるなら、遺言書を作成しておくとよいでしょう。

相続トラブルの防止に遺言書が重要なことは間違いないと思いますが、遺言書の内容次第ではかえって争いのタネをまくことになってしまいますから、十分な配慮をなさってください。