特別受益遺言書

生前にもらった

相続で難しい問題というと、共同相続人(親が死亡して遺産分割協議をしているなら、兄弟姉妹が共同相続人の場合がほとんどです)の中に、生前に財産を得た人がいるというケースです。

難しいというポイントをいくつかご紹介します。

生前にもらった

生前に何かをもらうことはあるでしょうが、(1)海外旅行に行くときにお小遣いとしてもらうのと、(2)婚姻のときの資金援助・生計の資本としての贈与とは性質が異なります。

(1)も(2)も問題になる可能性がありますが、法的には(2)の方が問題です。という書き方をすると、(1)のことは無視して(2)についての処置を考えればよいような気がするかもしれませんが、遺産分割協議では、家族・親子・兄弟姉妹の間の感情や、これまでの「家族の歴史」がありますので、(1)を軽く考えない方がよいでしょう。建物に例えると、(1)が建物の基礎・土台部分で、(2)が居住部分かもしれません。

 

(2)婚姻のときの資金援助・生計の資本としての贈与というのは、特別受益といわれます。

たとえ子供たち全員に等しく特別受益があった場合でさえも遺産分割協議では紛糾することがあるのに、たとえば次男だけに生前贈与して、長男に生前贈与はないとなると強い不公平感があるでしょう。

長男にはあげずに、次男にだけあげた理由があるのなら、遺言書を作成して相続分を指定しておきましょう。次男は体に障がい障碍)があってあまり働けないとか、勤務していた会社が倒産して生活に困っていたなどの理由があるのかもしれません。不公平感はあるとしても、長男も納得してくれるかもしれません。

 

長男が不公平感を抱き、兄弟の仲が悪くならない工夫としては、あらかじめ全員で話し合って納得しておけばよいはずなのですが、実際には予定どおりにはならないことがあります。

自分の身の周りで相続争いはないはずという予想は結構はずれます。そうすると、対応策としては遺言の付言事項をつけておくことになります。

 

 

遺留分と持戻し

また、次男には特別受益があるとしても、特別受益の持戻しをしなくてよいという意思表示がされていることがあります。それで法律上は解決するはずなのですが、相続人たちの感情的な対立は一層高まるかもしれません。

特別受益の持戻しをしなくてよい意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲で効力を有するといわれていますが、では、

「遺留分に関する規定に反したら無効なのか」

というと、そういうことでもありません。

遺留分に関する規定に反したら、遺留分を侵害された相続人(ここの例では長男)が遺留分侵害額請求をすればよいのですが、もしかすると、長男は自分の相続分に不満を持ちながらも、「それならそれでいいか」と思うかもしれません。

その結果、次男の相続分は正式に(不当ではなく)増えることになります。長男の遺留分を侵害するような遺産分割協議となっても、本人たちがそれでよければよいのです。もっとも、本心では満足していなくても、争いを好まない人もいますから、苦情を言ったり、訴訟を起こしたりしないだけのことかもしれません。ですから、相続手続終了後、兄弟の仲は疎遠になるかもしれません。

遺言書と真実

もっと困るのは、遺言書に「次男に XXX 円あげた」と書いてあっても、それが遺言者の勘違いということがあることです。

自分の子が500万円の負債を負って困っていたので、父がそのうちの250万円を援助したのに、父の遺言書には「500万円の負債を肩代わりしてあげた」と書いてあったりします。これも共同相続人が遺産分割協議をするにあたって大きな障害となります。

被相続人(父)の記憶力が衰えてから遺言書を作成したのかもしれません。借金の肩代わりをしたのが、相続開始の少し前なら事実関係がわかるかもしれませんが、15年とか20年とか前のこととなるとたいていはわかりませんから、共同相続人(兄弟姉妹)の間で不公平感や不信感が募るかもしれません。

何年前の特別受益までさかのぼるかという法的な問題はありますが、それよりもここで問題なのは

「父から500万円もらったのに、なぜ250万だと嘘を言うのか。」

ということです。嘘ではなく勘違いだとしても、全体の状況やこれまでの経緯を総合して嘘だと思われてしまうこともあるでしょう。感覚とか感情を軽視しない方がよいと思います。

 

このようなことは、自筆証書遺言で(自分ひとりで)作成しても、公正遺言証書として作成しても起こりうる問題です。公正証書遺言は公証役場で公証人が作成しますが、公証人は500万なのか250万なのか調査できません。

 

 

遺言書どおりにはいかない?

生前に、ひとりの子だけに、お金ではなく土地をあげた場合、遺言書で「この土地は2千万円の価値があるので・・・」と書いても、特別受益の対象となる目的財産の金銭的な評価は、相続開始時とされていますから、遺言者が「この土地は2000万円の価値」と書いても、そのまま当てはまるとはかぎりません。遺言書を作成したときの価値と相続時の価値は異なる可能性があります。ですから遺言者が、遺産分割協議での計算がわかりやすいようにと配慮して、不動産の価格を明示してあげたつもりでも、予定どおりの結果になるとはかぎりません。

遺言書に次のような内容があるとします。

次男の二郎はアルバイト生活をしていて、結婚のときに生活費に困っていたから「お金を貸す」という形で500万円渡した。しかし、返済も難しそうなので、そのまま生前贈与とすることにした。これでは長男の一郎に不公平なので、この500万円は特別受益として計算し、遺産は以下の割合で分割すること。ですから、遺留分侵害額請求権の行使はしないでください。(以下、略)

遺言者本人が、次男に生前贈与をしたと記載しても事実として確定するとはかぎりません。遺言者本人の勘違いかもしれないので、実際に500万円を渡したかどうかはわかりません。

しかし、遺産の中の預貯金が2千万円あるが、長男に1千500万円、次男に500万円を相続させると書けば、とりあえずそのようになるでしょう。

遺言書には、遺言者の最終意思が反映されることになっていますが、「△市△町の私の土地は、長男に相続させる」と書いてあっても、その土地が遺言者のものではないこともあります。これはもちろん相続できません。遺言書の内容が事実と異なるのであれば、遺言書どおりにならないこともあります。

生前に財産を得た

このページの始めに「生前に財産をもらった」と書きましたが、特別受益にあたる生前贈与、特別受益ではない贈与などいろいろなもらい方があります。

他の兄弟姉妹などには内緒で、特定の子だけにお金などを渡していたという以外に、親の世話・療養看護などをしていたときに親のお金を内緒で引き出して自分のものにしているという例もあります。

 

遺産分割協議では、まず遺産の特定が大切ですが、これは結構難しいことがあります。