遺言書

遺留分侵害額が払えない

相続開始後、法定相続人たちは遺産分割協議をすることになります。法定相続人全員でしなければなりませんが、全員がひとつの部屋に集まって会議をする必要はありません。書面のやりとりでよいのです。

法定相続人が誰なのかわからないことがあります。離婚・再婚・養子縁組などしていると本当に知らなかった相続人がいるかもしれません。そういう場合は、専門家に戸籍を取り寄せてもらえば明らかになるでしょう。

とにかく法定相続人全員で、遺産の分け方を考えてください。

遺留分侵害額請求

遺言書があれば、まずはそのとおりにする方向で手続きすることになりますが、あまりに不公平な相続分しかない人は、(よほど特殊な事情がないかぎり)遺留分という権利を主張できます。

以前は遺留分減殺請求といいましたが、令和元年7月1日から遺留分侵害額請求となりました。簡単にいいますと、遺留分減殺請求というのが遺産の現物返還を求めるのに対し、遺留分侵害額請求は遺留分に相当する金銭を渡してもらうものです。

 

 

たとえば、遺産がマンションの1戸だけという場合、そのマンションを遺言書どおりにAさんが相続したと思っていたけれども、Bさんが遺留分減殺請求をして、そのマンションの4分の1だけがBさんのものだと決まったとします。このような共有では実際のところ、AさんもBさんも困るのです。

共有というのは、面積割合からして4部屋あるうちの3部屋がAさんのもので、1部屋だけBさんのものということではなく、4部屋すべてのうちの4分の3がAさんで、すべてのうちの4分の1がBさんです。同じ部屋の4分の1だけの所有権・使用権があるとなっても非常に困るでしょう。

まして、たいていはこのAさんとBさんは仲がよくありません。もともと仲が良くなかったのか、相続を機に仲が悪くなるのかわかりませんが、おそらく共同でひとつのマンションを使えることはないでしょう。

そうすると遺留分を金銭でもらう分遺留分侵害額請求の方が実用的です。

遺留分侵害額相当のお金がない

上の例で、マンションの価値が4000万円なら、AさんはBさんに1000万円を渡せばよいのですが、Aさんにこの1000万円がなければ渡しようがありません。

このことは、遺留分侵害額請求の制度を作る審議のときにも議論がなされたようです。たとえば、現金で渡せないのであれば現物支給が考えられますが、それでは遺留分減殺請求と同じとなってしまいます。上に紹介しましたようにマンションの共有では困るので、他の現物を裁判所が指定するのはどうかというような案もあったようです。結局、「期限の許与」となりました。

期限の許与とは

期限の許与とは、支払期限を先延ばしするということです。ただし、裁判所が決めることですから、当事者の思いどおりになるかどうかはわかりません。70歳で相続し、期限の許与が5年だとすると、支払いの目途は立つのでしょうか。Aさんが70歳で、Bさんに渡す1千万円の手持ちがないケースで、例えばですが、5年待って、Aさんが75歳になったとき、Bさんに渡せる目途が立つでしょうか。10年ならどうでしょうか。

そうするとAさんは、Bさんへの支払義務を負ったまま亡くなり、Aさんの相続人がBさんに支払うことになるかもしれません。また、その頃にはBさんも亡くなり、Bさんの相続人がAさんの相続人から上記のマンション持分相当額を受け取るかもしれません。

後からもらうのだから利息は付くのか

お金を業者さんから借りれば利息とか遅延損害金が付くでしょう。本来ならAさんの相続時にすぐにもらえたはずなのに、だいぶ先になってからもらうので、金額は増えるはずと思う人もおられるかもしれませんが、期限の許与の場合、利息も遅延損害金もつきません。

遺留分制度とは、相続人の生活保障や潜在的持分の精算だと考えられますから、遺留分侵害額請求で遅延損害金はありません。

しかし、遺留分侵害額請求は不動産事業などをしているときに役に立つといわれています。

期限の許与の行使方法

遺留分の全部または一部について、上の例でいえば、Bさんが裁判所に期限の許与を請求する必要があります。請求というのは、簡単に言うと訴訟のことですが、いきなり訴訟ということは考えにくく、まず、相続人全員で話し合う機会があると思います。こういうケースでは遺言書があるのでしょうが、話し合う余地はあります。

 

 

遺言書の内容が大切

被相続人(亡くなった人)が、たとえば不動産事業をしていて、相続人の誰かに不動産事業を継がせたいという場合には、通常は、遺留分侵害額請求のための訴訟をしなくてよいように工夫がしてあると思います。遺言書は本来そのように作られているはずなので、むしろ、これから遺言書を作成する予定の方がご注意ください。