遺留分の侵害をしてはいけないか

相続財産の全体について、各相続人の相続分を指定する遺言書を作成できるわけですが、その際、「遺留分の侵害が生じないよう注意する必要がある。」ということがよくいわれます。

それはそうなのですが、

  • 遺留分を侵害する内容の遺言書も有効である。
  • 遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることができる。
  • 遺留分侵害額請求をされても、多くの持分を指定された相続人は得をすることが多い。
  • 遺留分を侵害された相続人が遺留分侵害額請求をしない可能性もある。

というようなことを考えると、

「遺留分の侵害が生じないよう注意」

というのは、「この制度があることを知ったうえで遺言書を作成してください。」という意味であって、「遺留分の侵害が生じる遺言書は作ってはならない。」とか「遺留分の侵害が生じるような遺言書案を作成する専門家は頼りにならない。」ということではありません。

不公平でも法的には問題なし

次のような事情で、遺留分を侵害する遺言書を作成してほしい、という依頼があります。

  • 老後の面倒を看てくれた子に全財産をあげる。
  • 親が、長男と一緒に暮らしていたが、長男の嫁と親との仲が悪くなった。嫁には一切の財産を譲りたくない。長男が相続すれば、その財産を嫁も一緒に使うはずだから、長男には一切相続させたくない。
  • 長男と次男がいるが、次男は私の意見を聞くが長男は聞かないので、財産のほとんどを次男にあげたい。

この場合、法的効果等を説明したうえで、依頼人の意向に沿うように原案を作成するのが専門家です。

遺留分・遺留分侵害額請求についての説明もしますが、なるべく、なぜそのように相続させたいのか(なぜ不公平に見える遺言書にしたいのか)もお尋ねするかもしれません。

話したくなければそれで仕方がありませんが、お話いただければ、第三者として何らかのアドバイスができることもあります。また、より良い方法をご提示できるかもしれません。

「同じようにご自分の子なのですから、みんな平等になるようにして、仲良くすればいいじゃないですか。」というようなありきたりのことを言っても、相談者さんの心に響くでしょうか。家族の歴史というのは、そう簡単なものではありません。

  • なんとなく気が合う、合わない、
  • 自分勝手に家を出た
  • 大学に行けというのに行かなかった
  • 仕事を勝手に変えた
  • 家業を継がなかった
  • 金遣いを注意したのに従わない
  • 結婚相手として認めないと言っているのに結婚した

「なんとなく気が合わない。」というのは、親からみて子と気が合わない場合もありますし、子からみて親と気が合わないということもあるでしょう。

金遣いが荒く、親に苦労をかけたとか、犯罪を繰り返したとか、親を虐待したというような事情があれば、廃除という制度もあります。

遺言書にかぎったことではありませんが、総合的に考えるべきケースがよくあります。親・子・孫のような縦のつながり、兄弟姉妹の横のつながり、過去・現在だけでなく未来も見据える必要があるかもしれません。家族の歴史や感情も十分考慮して、最善の策がとれるよう協力したいと思っています。