遺言書で死亡退職金の指定

遺言書で、死亡退職金の受給者を指定できるか」というタイトルにしたかったのですが、長いので短縮して記しました。

 

先に結論を書きますと、

  • 死亡退職金は一般的には相続財産ではありません。
  • ですから、遺産分割協議の対象にもならないのが普通です。
  • 遺産分割協議書に記載する必要もなく、受給者(受取人)は決まっています。

そもそも退職金とは

死亡退職金ではなく一般の退職金は

  • 退職後の生活保障
  • 賃金の一部だが退職時の後払い
  • 労働者の勤続功労に対する報償

というような性質があるとされています。ですから、離婚の際にも(財産分与で)問題になるかもしれません。

死亡退職金は遺産ではない

死亡退職金は本人が生前に持っていたわけではありません。死亡退職金は死亡してからもらうので、生活保障のためのはずはないし、死亡してから後払い賃金や功労報酬をもらうというのもおかしいでしょう。

在職中に死亡した場合に支払われるものですから、「遺族の生活保障のため」と考えるのがもっとも納得できると思います。

死亡退職金の受取人は

死亡退職金のほかに、生命保険金(死亡保険金)など、死亡時に給付されるものがあるでしょう。相続財産なのかどうかきちんと整理しましょう。たとえば、

  • 死亡退職金の受給権者が妻とされていても、死亡の時点で離婚して妻がいない場合には法定相続人全員が受取人となる、
  • 契約時に妻が受取人として指定されていても離婚している場合には受取人ではない、
  • 契約時と死亡時で妻が異なるときは死亡時の妻が受取人、
  • 事実婚・内縁の妻は、受取人ではなく、あくまでも戸籍に配偶者として記載されていなければならない、

などの支給規定があるかもしれませんが、

  • 支給規定がない場合もあり、
  • 規定があっても受給権者が定めていない

こともあります。

支給規定があっても、受給権者について「遺族に支給する。」とだけ定められていた事案では事実婚・内縁の妻が第一順位の受給者であるとした判例もあります。(要するに、遺族が受け取るという規定があって、事実婚・内縁の妻が受取人とされたということです。)

事実婚・内縁の妻は、多くの場面で「法律婚の妻」と同様に解釈されるようですが、民法上は相続権がありませんので、判決で内縁の妻に受給権が認められたケースでは、死亡退職金の受給権は民法の規定とは異なるということです。

死亡退職金が相続財産であるという考え方もあり、また相続財産ではないという考え方もありますが、判例では「死亡退職金は、特段の事情がなければ、支給規定の有無にかかわらず、相続財産には含まれない。」という傾向が強いようです。

 

 

受給者を遺言書で

死亡退職金が相続財産でないということは、死亡者本人の財産・遺産ではないということですから、死亡した人(被相続人)が遺言書で受給者を指定することはできないでしょう。

しかし、支給規定に、死亡した人(労働者)が生前に受取人を指定することができるという定めがあれば、労働基準法が適用されて、結果的に「死亡保険金の受取人を遺言書で指定できる。」ことになりそうです。ただし、支給規定で、労働基準法施行規則第42条から45条までの規定(遺族補償の規定)を準用していない場合は、遺言書での受取人指定はできないというのが一般的な理解でしょう。

事実婚・内縁の妻は

受給権者の規定によって、事実婚内縁の妻は配偶者としての権利を主張できないことがあります。

法律婚(婚姻届を提出した婚姻)は制約もある代わりに保護もありますので、主義主張や信念があって法律婚に反対しているのでなければ、事実婚・内縁関係は避けたほうがよいと思います。(内縁関係というのは、もともと法律婚をしたくてもできない場合のことを指すようなので、内縁関係は避けられないことがあるかもしれません。)

法律婚に反対して事実婚を選んでいるケースのひとつに、「配偶者としての法的な制約も保護も拒否する」という場合があります。この場合、自分の遺産の受取人を指定するなら遺言書によることとなるでしょう。ただ、死亡保険金の場合、上に書きましたように、遺言書では実現できないこともありえます。

保険金の代理請求

遺族全員・法定相続人全員が受取人に指定されているときには、その中のひとりが代表して請求して、受け取り、そして全員に分配するのが普通です。

いろいろな事情で、代表受取人が決まらないこともあります。川崎市中原区の彩行政書士事務所が請求・受取り・分配をお引き受けしますので、ご相談ください。(特別な事情があればお引き受けできないこともあります。)