心を伝える

遺言書が1通ではないことがあります。

遺言書は、公正証書として作成するほか、自分ひとりで作成して預金通帳などと一緒に保管しておくものとか、自分で作成して法務局に保管してもらう(自筆証書遺言書保管制度)ものなど、何通もあったり、保管場所も異なることがあります。

どなたかが亡くなったあと、何通かの遺言書がみつかれば、どういう内容の遺言であるかを確認することになりますが、勝手に開封などしていけないことになっています。検認という手続きが必要なのですが、公正遺言証書と自筆証書遺言書保管制度による遺言書であれば検認は不要です。

遺言は本人の最終意思を表すものですから、本人がいつでも撤回できるのですが、作成済みの遺言書を破棄するか、あるいは新しい遺言書によって撤回します。そうすれば遺言の効力が発生する前に、古い遺言書の内容を変更したり、将来に向かってその効力を失わせることができます。

公正証書遺言自筆証書遺言よりも効力が上回るということもありませんので、自筆遺言証書で、公正証書遺言を撤回することもできます。

後遺言優先

一番最後に作成された遺言書を基準にして、以前に作成された遺言書の内容を検討します。後の遺言が有効なので、日付をみればどれが後かわかりますが、内容も検討してください。

後の遺言書(後遺言)で、前の遺言(前遺言)の全部あるいは一部を撤回することもあります。また、後遺言と前遺言の内容が食い違う部分は、後遺言によって撤回されたとみなされます。これを撤回の擬制といいます。

撤回の擬制

  • 「川崎市中原区に所有する50坪の畑は、二郎に相続させる」

という遺言書があるのに、

  • 「川崎市中原区に所有する50坪の畑は、吾郎に相続させる」

という日付の新しい遺言書もあるとします。前遺言について何も触れられていなければ、新しい内容が遺言者の最終意思とみなされます。この「「川崎市中原区に所有する50坪の畑」を相続するのは吾郎さんでしょう。

遺言書が何通あっても、矛盾する内容がなければ古い日付の遺言内容も有効です。

また、「川崎市中原区に所有する50坪の畑は、吾郎に相続させる」という遺言書があるのに、遺言者本人が自分で売却した場合など(生前処分した場合)にも撤回が擬制されます。

古い遺言書

作成日の古い方の遺言書ももしかすると有効な内容を含んでいる可能性がありますから、見つけた場合にはきちんと保管してください。

遺言書の書き換え

上のように、何通もの遺言書があると、内容を精査する必要が出てきます。もし新しい内容に書き換えるのでしたら、「本日より前に作成した遺言書の内容はすべて撤回する」と明記して、作り直すことをお勧めします。

自筆証書遺言で、書き直すのが疲れるということでしたら、自筆証書遺言の内容を極力短いものにするとよいでしょう。内容によっては、シンプルな内容にするのにテクニックが必要なことがあります。

全文自筆でシンプルな内容にした場合には、相続人たちが不満を抱くかもしれません。自筆証書遺言なだけに、これは本人が書いたのではないかもしれないなど、疑惑が生じるかもしれません。

付言事項と手紙

そういう心配や、相続人たちの諍い(いさかい)を防止するために、付言事項をつければよいと思うのですが、これを自筆で延々と書くのはつらいかもしれません。

それならパソコンで書くとか、人にパソコンで入力してもらうというのはいかがでしょうか。自筆証書遺言であれば、この部分は自筆でなければなりませんが、遺言書としてではなく、相続人など関係者に宛てた「手紙」という形なら可能です。それが本人が自分の考えを反映させたものであると信じられるかどうかは、その内容によると思います。

「親の心子知らず」ということもありますから、お父さんは(あるいは、お母さんは)あのことを、このように考えていたのかというようなことがわかれば、相続人さんたちは納得してくれるのではないでしょうか。

また、この「手紙」によって、遺言者であるお父さんの考えが間違っていると相続人全員が考えるのであれば、遺言書どおりにしなくてもよい場合もあります。その結果、相続人たちが仲良く相続するのであれば、遺言者自身も満足できるかと思います。

もし、相続人全員が納得するとしても、遺言者の指示に反してはならないということでしたら、そのように明記し、遺言執行者も指定しておくとよいでしょう。

 

 

心を伝える

さて、上に紹介したような「手紙」を書く場合、「何について」「どう書くか」が問題です。日記のようなものを書くのが得意でしたら、きっとご自分で書けると思うのですが、苦手な人もおられるでしょう。

また、悩みを抱えている人が自分で書こうとすると、内容に偏りが生じがちです。

事情と意向をうかがって、それを書面にする業務でしたら、遺言書だけでなく示談書等においても当事務所では実績があります。

  • 次男に多くの遺産を残すけれども、長男をないがしろにするわけではないということを理解してもらいたい
  • 次男の妻にもお礼として財産をあげたいが、次男に多く相続させれば、結局、夫婦で有効活用してくれると考えて次男の相続分を多くした

など、いろいろなケースがあります。

上の2番目の例で、次男の妻は法定相続人ではありませんが、特別の寄与の制度を使うより、このように相続させる方がよいと考えたなど、いろいろな理由があるでしょう。

このように、自分の本心、伝えたい想いなどをどのように手紙(書面)で遺したらよいかというご相談を承ります。

 

遺言書に関連する書面だけでなく、示談書・合意書・誓約書・内容証明など数々の業務をしております。示談書・合意書・誓約書などで、法的に有効であればよいというだけではなく、円満な解決を希望する場合にもお役に立てると考えています。内容証明郵便でしたら、本当の気持ちだけでなく、覚悟を伝えたいということもあるでしょう。相続においても内容証明郵便を使うケースはよくあります。