特別の寄与

どなたかが亡くなると、その人が「被相続人」で、何の手続きをしなくても法律上、相続が開始します。妻・子などが相続人です。被相続人が遺した財産は、相続財産として、法定相続人たちなどに受け継がれます。

 

相続財産をどう分けるかは、まず遺言書で指定されているかどうか確認します。遺言書がないとか、遺言書で指定されていない部分があれば遺産分割協議で決めることになります。協議で意見が一致しにくければ法定相続分を参考にしたり、法定相続分どおりに分けることが考えられます。

相続権があるのは妻・子などの法定相続人ですが、被相続人の死亡前に法定相続人が死亡していると、代襲相続の可能性もあります。

法定相続人でない家族

たとえば甲太郎さんに、

  • 乙太郎
  • 丙太郎
  • 丁子

という3人の子がいて、甲太郎さんが

  • 乙太郎と
  • 乙太郎の妻・A子

の3人で暮らしていたとします。簡単にいうと、甲太郎さんは、長男とそのお嫁さんと暮らしていたわけです。

 

甲太郎さんは、高齢のせいもあって病院通いが必要でしたが、乙太郎さんは仕事の都合で父(甲太郎さん)の面倒がみられません。そこで、一緒に暮らしているA子さんが、甲太郎さんの療養看護をするようになりました。食事の世話、入浴の世話などもほとんどすべてをA子さんがしました。

 

そして、甲太郎さんが亡くなったとします。自動的に相続が始まり(相続開始となり)ます。この例では、法定相続人は、

  • 乙太郎
  • 丙太郎
  • 丁子

の3名です。遺産分割協議はこの3名でおこないます。

問題はA子さんです。A子さんは、法定相続人ではないので、法定相続はできません。単純に考えると、A子さんは甲太郎さんの財産をもらえません。

  • 遺言書によって、甲太郎さんはA子さんに財産をあげることはできますが、A子さんは法定相続人より割高な税金を払うことになります。
  • 遺言書がなくても、3名による遺産分割協議で「A子さんにも遺産をあげよう。」と決めてもよいのですが、この場合、甲太郎さんの財産を法定相続人3名が相続し、その一部をA子さんに贈与したことになりますので、税金は高くなります。
  • 法定相続人の3名が、遺産分割協議でA子さんに遺産を分けることに賛成しなければA子さんは何ももらえません。

現実的には、遺産の分け方を

  • 乙太郎(+ A子)
  • 丙太郎
  • 丁子

と考えて、乙太郎さんの相続分を多くし、A子さんと一緒に使ってもらうというやり方があります。これでは「夫婦別産制」と食い違ってしまいますが、法律が現実に即していなければしかたがありません。

配偶者の父母は何親等か

親は1親等、兄弟姉妹は2親等です。配偶者に「親等」はありません。便宜上、ゼロ親等ということもあります。配偶者の親(義理の親)は1親等です。

しかし、義理の親が死亡しても相続権はありません。1親等なのに相続ということで考えると、他人と同じです。

甲太郎さんとA子さんは、相続では他人のようなものであり、相続権はまったくありません。甲太郎さん(A子さんからみて義理の父)が死亡する前に、乙太郎さんが死亡してしまっていると、法的には、A子さんは甲太郎さんの相続にまったく関わることなく相続手続きが終了することになります。A子さんが、甲太郎さんのお世話をしたことは、遺産分割のような形で報われることはないかもしれません。

もっとも、甲太郎さんはA子さんを実の娘のように可愛がり、A子さんも甲太郎さんを父として療養看護し、遺産相続に関係なくてよいということであればそれで何の問題もありません。

あるいは、A子さんが、「夫の父の療養看護するのは当然で、遺産を自分がもらうことなど考えていない」ということであれば、まったく問題ありません。

 

ただ、乙太郎さんとA子さんの間に子があれば、この子が代襲相続しますから、相続人全員の同意が得られれば、この子にA子さんが得て当然と思われる額を上乗せしてたくさんの財産を受け取り、A子さんと共に使うということも可能でしょう。

  • 乙太郎(+ A子と乙太郎の子供)
  • 丙太郎
  • 丁子

という考え方です。相続人の同意が得られなければ、A子さんは何ももらえません。

A子さんは「寄与分」を主張すべきという意見もありますが、寄与分という考え方では解決しないと思われます。【寄与分】をご参照ください。

 

 

特別の寄与

法律と現実(常識)が一致しないのは好ましくないでしょう。令和元年(2019年)7月1日からは「特別寄与料」が認められることになりました。「寄与分」とは別のものです。

特別の寄与の制度によれば、

 A子は、甲太郎の療養看護等に関して、相続人(乙太郎と丙太郎と丁子)に金銭を請求できる。

ことになります。注意点としては、

  • 甲太郎の相続に関する相続人は、従来どおり、乙太郎・丙太郎・丁子のみ。
  • 遺産分割協議は、乙太郎・丙太郎・丁子だけでする。
  • 特別の寄与とは、親族間の扶養義務を超える程度の貢献を指す。
  • 特別寄与者とは、被相続人の親族であって法定相続人でない者。
  • 特別の寄与とは、無償(無償同然)で行なった療養看護その他の労務提供により、被相続人の財産の維持や増加に寄与すること。
  • 特別の寄与は、金銭で請求する。
  • 特別寄与料に、被相続人がしていた事業についての貢献は考慮されない。
  • 特別寄与料の額について、相続人とA子の主張が一致しなければ、A子がその額の妥当性を説明しなければならない。
  • 特別寄与料の消滅時効期間は、相続開始を知ったときから6か月、相続開始の時から1年。

ということです。以下、さらにいくつか注意点を付け加えます。

相続欠格者や被廃除者に該当する立場の人には、特別寄与料の請求権はありません。

特別寄与料にも消滅時効期間がありますが、当事者間で協議をするのでしたらその期間を過ぎても差し支えありません。

内縁関係の人は親族ではないので、特別寄与料の請求者になれないようです。

特別の寄与の権利行使

ちょっとみると、現実に即した良い法律を作ってくれたように思えますが、A子さんが相続人の意に反して特別寄与料を得たいのであれば、かなり苦労するだろうということです。良い法律だとは思いますが、現実に即しているかということになると、やはり不十分かと思います。

A子さんが特別寄与料の額の妥当性を説明しなければならないということなので、療養看護に費やした時間、労力の程度、費用などについて客観的に納得できるように説明できなければなりません。領収書などを保管しておき、日記・日誌等でどのように療養看護したかを具体的に記録する必要があるでしょう。

ということは、相続開始前に、ある程度の「事実関係を表す資料集め」「証拠集め」のようなことをしておくべきなのでしょう。

時効消滅期間もかなり早いです。他の共同相続人が「体調が悪い。」「忙しい。」「次回の協議は2か月後に。」などと言っていると、あっという間に時効消滅の条件が整います。すぐに行動しないと間に合わない可能性があります。ちょっと話をしてみて長引きそうなら、まず内容証明郵便で通知しておいたほうがよいと思います。

彩行政書士事務所では、事実証明書類作成の業務をお引き受けしていますが、日常的な、長期間の記録が必要となると、やはりご自身での作業が不可欠といえそうです。

特別の寄与の主張前から

特別の寄与の制度を利用するのなら、あらかじめ「療養看護の記録と領収書」などを用意しておいたほうがよいことになります。過去のことについてもできるかぎり思い出し、関係書類や領収書を保管しておくべきといわざるをえません。

日常的にそういうことをしておくのはあまり印象がよくないかもしれませんが、法律を使うというのはそういうことです。極力、「法律では・・・」「訴訟で・・・」といわずに、話し合いや協議で解決するのが理想ですが、相手のあることですから、いくら自分が穏便に済ませたくても実際にはカドの立つこともあります。カドを恐れ過ぎてはいけないと思いますが、それでもカドを最小限にしたいと彩行政書士事務所では考えています。

川崎市中原区の行政書士

人と争いたくなくても、いつも相手から押されるまま、言われるまま、我慢してしまう人は、どちらかといえば不幸を呼び寄せると思います。周囲からは、やさしい良い人だと言ってもらえるかもしれませんが、それが大人の対応といえるかどうか。やはり人生で何度かは「どうしても引けない場合」「引くべきでない場面」というものがあるでしょう。

そういうとき、なるべくカドを立てず、極力穏便に対処するには専門家に依頼するのがよいと思います。具体的にどうするかは事情によってさまざまですから、面談等で検討しましょう。

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