老後のための遺言

生きているうちから重要

遺言書は「本人の最終意思の確認・実現」のためということになっています。遺言書は、自分亡き後の遺産分割について書くものでしょうが、老後の生活に深く関連することも多いようです。近頃はその傾向が強くなっているかもしれません。

人生とは死ぬことと見つけたり?

話が少し逸れますが、高校生や大学生が就職を考えるとき、非常に多くの人が公務員を目指します。希望職種はないことが多いようです。要するに、失業せず、安定していて、過酷な労働条件でもないことが魅力のようです。若いうちから老後の心配をしています。今の時代に遺言書を書く意義が昔とは違う理由が、こういうところに現れているのではないでしょうか?

昔(かなり昔ですね)、明日死ぬかもしれない中で毎日を生きていた頃は、「生きている間に何をするか」が重要でした。言い換えれば「何に命をかけるか」を考えました。しかし、平和になった今、どうやって長生きするか、長生きしても生活に困らないように、という思いが非常に強いと思います。わが国の年金制度のあり方や、病気になったときに十分な介護・高度医療などを受けられるかどうかという点も原因のひとつかもしれません。

生前と死後

そうしますと、遺言書も「自分が生きている間に叶えられなかったことを何とかして欲しい」という自分亡き後の「未来」の話の場合もあるし、「自分がよりよい老後を過ごせるように協力してくれた人に財産をあげる」という「現在の問題」となっている場合もあります。これは上にも書きましたように、政治や社会制度に問題があるのかもしれません。自分亡き後の問題か、自分の老後の生活問題か、ということです。

法的な状況把握

もちろん、自分の死後、相続人たち(前に婚姻関係にあった人との子、前婚の子と後婚の子がいたり、兄弟姉妹たちの経済状態が大きく違ったりすると、相続が複雑化することが多くなります)が仲違いしないように、幸せになれるように、感謝などの気持ちを表わすために書く人が多いと思いますが、上記の2つの事情が微妙に入り込むことが多いので、その点を冷静にお考えになるとよいでしょう。自分では気付かないこともありますから、第三者に相談することをお勧めします。

ご夫婦で遺言

ご夫婦共に年を取ってきて、ふたりで老後や自分たち亡き後のことを語り合うこともあるでしょう。そしてお考えが一致していることも多いと思います。

ご夫婦の一方が亡くなったとき、法的にはもちろん相続が開始します。相続財産のうち、配偶者が2分の1を相続し、残りの2分の1を子供たちが均等に分けるというのが原則です。

財産内容にもよりますが、お父さんが亡くなったから、お母さんと子供たちで法定相続分どおりに分けましょう、ということになると、お母さんは老後の生活に不安を抱くかもしれません。

この場合に備えて、お父さんは「私の死後、私の相続財産はすべて妻に相続させる」という遺言を残しておくことが考えられます。妻が夫のすべての財産を自分の老後の生活に使って、お母さんが亡くなったときに、お父さんから相続した分も余っていれば子供たちが相続するでしょう。

これは、子供たちから「法定相続分どおりに遺産を分割しよう」と提案されると、妻の老後のことが心配だという場合によく使う遺言です。

上の例で「お父さん(夫)」と「お母さん(妻)」を入れ替えて読んでも同じことです。
法定相続分という制度があるだけに、その弊害を抑えるための遺言といえるでしょう。夫と妻が相互に作成しておくとよいでしょう。

ご夫婦で考えが一致していても、遺言書は、一枚の紙に、二人が連名で書いてはならないので、別々に作成してください。