家を継ぐ

日本の生活

家を継ぐ」というタイトルにしましたが、内容は江戸時代から続く家の「家訓」です。
家訓とは公家・武家・江戸時代以降の商家で、その家を守り立て存続させていくために、子孫への戒めとしてその家の当主が書き残して与えたものです。
家によっていろいろな家訓があるでしょうが、ここに書いたのは一例です。一例とはいえ、どの家も結構似ていると思います。日本の人生の知恵がまとめられていると思います。

遺言書 川崎

日本の過去

相続関係の相談や遺言書の業務をしていると、現在の憲法とはかなり違う考え方・習慣が根付いていると感じます。
「そんなことではいけない。法律・法規・法務に携わっているのだから、戦後の憲法のみ考慮すればよい。」
と思わなくもないのですが、実務ではそうもいきません。

家訓、家定め

そんなとき、江戸時代から続く家の家訓・家定(「いえさだめ」と読みます。)を読んでみると、すらすらと頭に入ります。理解できるというより、心にしみるのです。

相続関係・遺言書

相続関係の手続きや遺産分割遺言書の書き方など、昔の家訓を参考にした方がよいとまではいいませんが、考慮する価値はあると思います。少なくとも、昔はどのようにしていたかを知っておいて損はありません。子孫を繁栄させ幸福にしたいと願うのであれば、昔の家訓はたいへん参考になると思いますが、現在では個人主義です。遺言書を書くのも、「故人の最終意思の実現」のためです。家訓などナンセンスでしょう。

家訓の内容は「方針」「心構え」というイメージがありますが、実際はかなり具体的なものもあるようです。遺言書は「何番地の不動産を誰のものにする」というように具体的ですから、類似点も多いようです。ただし、家訓は自分ひとりの考えではなく、ご先祖が遺しているものをそのまま踏襲するので、両者は別物とも考えられます。そもそも家訓において(家を継ぐという意味では)、個人所有の財産はないというのが一般的だと思います。

☆ 現在、自分やわが家があるのは先祖のおかげである。

☆ すべての財産は、先祖から預かったものである。

☆ 先祖から預かったものを少しも失わず、子孫へ預け渡すこと。

☆ 本家がつぶれそうなときは、別家(分家)が援助すること。別家がつぶれそうなときには本家・別家が相談して助け合うこと。

☆ 贅沢をせず、質素倹約を心がけること。

☆ 人から「ケチ」と言われるようなことをしないこと。

☆ 怒りや妬みの心を抱かないこと。

☆ 百年ののちも限りなく繁栄するする覚悟をもつこと。

☆ 本家は樹の幹であり、別家は枝葉である。本家は花実を結び、よく繁茂するようにし、別家は本家が衰えないように守護すること。

☆ 本家相続の者が倹約せず、怠けていれば、別家の者が諌めること。その諫言を聞かない場合は、その相続人を廃嫡して、二男でも三男でもふさわしい者に相続させる。あるいは、別家から器量のある者を選んで相続させる。この際に、「えこひいき」があってはならない。

☆ もし本家が衰えるようなことがあれば、別家が補って、これまでの恩に報いること。

☆ 本家に対し逆意を抱く者があれば、その貨財だけでなく全部取り上げてよい。ただし、本家が取り上げても、それは先祖から預かっただけの財産であるから、本家のものではない。

☆ 孝弟忠信を心がけ、徳のある人に随い、悪人と交わってはいけない。

☆ 博打、酒宴、遊興、遊芸などにふけってはいけない。これは驕慢のもとである。

☆ 先物取引・米相場取引などがあるが、これは博打と同様であるからこれをしていけない。山師商いも同様である。

☆ 縁組は一族の内で末々にいたるまで、本家・別家互いに縁組すべきである。他家との縁組はたやすく許してはならない。

☆ 上記の取り決めを守っていれば、家が衰えることはないはずだが、それでも失敗し、借金などをした場合には、一族で相談の上、その跡継ぎ(当主)を押し込め、相続人を別に定めるべきである。

☆ たとえば当主が死亡し、相続する実子がなければ、しばらく後家が主人に代わって財政を切りまわすが、財産は先祖から預かったものであるから、その後家が自分ひとりの判断で処分してはいけない。後家が不埒なことをした場合には、親元へ返すべきである。一族が集まって速やかに処置すること。

☆ 客があっても饗応の時、魚鳥など生きているものを用いてはいけない。飼い苦しめることもいけない。殺生などは言うまでもない。蚊・あぶにいたるまで、命を惜しみ恐れることは、人間とかわることはない。

☆ 身の程に従って慈悲憐憫を加えなさい。ただ物を施すばかりがよいのではない。出入りの身分の軽い者や召使いでも、乱暴な扱いをしてはいけない。常に誠実にその日その日をすごすこと。

☆ 煩悩・業・苦の三道も、誠意を以て当れば、みな同じく乗り越えられるだろう。人間万事ゆめ・まぼろし、よく考え、楽しみなさい。

☆ 家訓に背くもの者があれば、天罰をまぬがれないだろう。

☆ 家訓を守らず贅沢などする者があれば、「押し込め」「蟄居」とする。
押し込めの場合、生活は
玄米・一汁一菜のみ
小遣い少々以外、金銭を使えない
外部の人との交際はしない
仏参のほか、外出しない
質素な木綿の着物しか持たない
趣味の事などをしてはいけない
ただし、押し込められている者を侮ったりしてはいけない

☆ 小さなことでも、一族で相談し、多数決で決めること。

☆ 限りある金で、限りない望みを抱くのは、単なる贅沢・わがままである。

☆ 自分の町に、生活に困窮している者があれば、ひそかに助けるべきであろう。人を助けて、自分の評判を高めようなどと考えてはいけない。

(以下、加筆していく予定です。)