相続財産管理

相続財産の管理と注意義務

遺言書がなければ、どの相続人が、そしてどの受遺者が相続財産の何をどの割合で相続するのかは、遺産分割協議で決めるので、相続開始直後(被相続人の死亡後すぐ)にはまだわかりません。

しかし、相続財産は現にあるのですから、管理が必要です。管理といっても、必ずしも手入れをするということではありません。相続財産である家の鍵をかけずに、家の内部には貴金属が置いてあるのでは困るでしょう。不審者が侵入したり、相続財産に何か起きたとき、その責任はどうなるのでしょうか。遺産を放っておいて、あとで相続に支障をきたしては困ります。

相続財産 管理 川崎

2種類の注意義務

民法上は「注意義務」に2種類あります。

  • 善管注意(善良な管理者の注意義務)
  • 自己注(自己の財産におけると同一の注意義務・自己の固有財産におけるのと同一の注意義務)

名称が長いので、善管注意とか自己注のように普通は短縮して言うようです。

善良な管理者の注意義務

民法第400条にあります。その人の職業や社会的・経済的地位に応じて、一般的に要求される程度の注意義務で、注意義務と言えば一般的にはこちらをさします。

たとえば、売買契約が成立してからも、引き渡すまではきちんと管理しておくべきだと普通は考えるでしょう。自己注よりも重い責任です。あまりにも無責任な管理をしていれば、善管注意違反となって、債務不履行責任があるかもしれません。

少しも注意していなければ「重過失」で、注意はしていたが不十分であれば「軽過失」です。

自己の財産におけると同一の注意義務

善管注意より程度の軽いものです。
無報酬で人のものを預かったなら、それが多少傷ついたり汚れたりしても、「あなたの管理が悪かった」といわれては気の毒です。利益を得て預かったりすれば「プロ」ですから、それなりの責任があるでしょうが、無報酬で預かるのは単なる「善意」によるものです。その善意の人を強く責めるわけにはいきません。

民法では何度も登場する規定で、以下のようなものがあります。

  • 「自己の財産に対するのと同一の注意」(無償受寄者の注意義務、民法659条
  • 「自己のためにするのと同一の注意」(親権者の財産管理、民法827条)
  • 「固有財産におけるのと同一の注意」(相続人の相続財産の管理、民法918条1項)
  • 「自己の財産におけるのと同一の注意」(相続放棄者の相続財産の管理、民法940条)

善意で為しているなら、
「この程度の管理をしていれば、人からあきれられるほどではない」「自分のものと同様なので、多少傷ついても汚れても、第三者からどうこういわれるほどでたらめな管理ではなければそれでよい」
という程度の注意をしていればよいのです。

相続での管理義務

相続が開始したのですから、相続財産はあるものの、具体的に相続人(または受遺者)の管理に移るまで、誰かが一時的にでも何とかしなければならないでしょう。その場合、プロの管理人と同じことを必ずさせるというのは気の毒です。

これらの人は自己注でよいのです。「自己の財産におけのるのと同一の注意義務」についての研究ではありませんから、相続相談のときにはこの程度の説明をしています。

川崎 遺産 管理義務