親の住んでいた家に住み続けたい

遺産の不動産を誰が使うか

遺産分割とは、亡くなった人(被相続人)の遺した財産を分けることですが、財産には大きく「お金」と「不動産」があります。分け方が難しいのは不動産です。
土地を二等分しても、価値に差ができるでしょう。
建物を2個に切り分けるというのは、よほど特殊な事情でしょう。

不動産の分け方には

  • 現物分割
  • 換価分割
  • 代償分割

があります。
まず、相続人の間で、今後、その遺産(相続財産)をどうしたいのか協議しましょう。協議とは、簡単にいうと単なる相談です。相続が、民法ではどのように規定されているかは後回しでよいのです。法的な実務手続きも後から考えるべきでしょう。

とりあえずは自分の希望を素直に言えばよいのですが、お互いにメモを取りながらとか、メールで連絡をしながら協議・相談するとよいと思います。

メモやメールは、後日、言った・言わないの問題にしたくないからですが、後日、メモが証拠となるかどうかは何とも言えません。協議の途中で勘違い・思い込みというのはよくありますので、それを少しでも避けるためにメモをしてください。メールのほうがもっとよいでしょう。
もっとはっきり言えば、よほど親しくないかぎり、面と向かっての協議はしないほうがよいと思います。

遺産である不動産を誰かが使用するのか

相続人がみんなマイホームを持っていて、誰も遺産である不動産(家)に住もうと思わないなら売却がよいでしょう。これが換価分割です。(もっとも、売りたくても売れない土地・建物もあります。この場合、誰が管理するか、管理費は誰が負担するかなどで困ることがあります。)

相続人の誰かが、亡くなった人の所有していた家に住みたい、その土地を利用したいという場合は、その人がひとりで相続して、他の相続人には、不動産の価値を相続分で割って、その人の分だけ金銭で渡せば解決するでしょう。これが換価分割です。その不動産をひとりで買い取るイメージです。

お金よりも不動産がほしいという相続人が何人もいれば、それは協議で決めてください。決まらなければ、換価分割となるでしょう。

以上のことをひととおり知った上で協議しないと、何をどうしていいかわからないまま協議が難航し、感情的にこじれていくかもしれません。

遺産分割協議書を作る

相続についての偏った情報を集めても何かとトラブルの元ですが、何も知らなくても問題になりそうです。「初めての相続」という人は多いので、わからない場合は、はじめから専門家に相談することをお勧めします。

どのように分けたいかが明らかになったら、遺産分割協議書の作成にとりかかりましょう。遺産分割協議さえ調えば、遺産分割協議書という書面は不要なこともありますが、不動産がある場合は必ず必要だと考えてよいでしょう。

遺産分割協議書は、何をどのくらいの割合で誰が相続するかを書くのが重要ですが、その際に、換価分割とか代償分割だということがわかるように書いておかないと、税法との関係で思いもよらぬことになる場合があります。

代償分割のつもりだったので相続税のことしか考えていなかったのに、贈与税が生じて、特定の人がとんでもない損をすることになるという例があるのでお気をつけください。

代償分割の問題点

換価分割は、売却益を一定の割合で分けるので、極端にいうと「割り算」だけでできます。
代償分割も、不動産を売ったとすればいくらなのかを計算して、一定割合で分ければ、他の相続人にいくら支払えばよいかは比較的簡単にわかります。

たとえば評価額3千万円の不動産を3人で等分に分けるなら、ひとりが相続して、他の2名に1千万円ずつ(合計2千万円)渡すだけです。

しかし、その不動産を相続した人は2千万円を持っているのでしょうか。
持っているなら問題はありませんので、ここから先はお読みいただかなくても大丈夫です。

ひとりで買い受けるだけの代償金がない

上の例で2千万円を持っていないなら、たとえば銀行などから借りることが考えられますが、借りたお金は利息付きで返済しなければなりません。その返済計画はできているのでしょうか。

自分の給料等で返済できればよいのですが、そうでなければ金融機関から融資を受けられるとは思えません。
相続した土地・建物に引き続き住むのであれば、この不動産から上がる収益はありません。
そうすると代償分割による相続方法は難しくなります。

その土地・建物に住むつもりで相続したけれども、代償金(代償分割の際に、他の相続人に支払うお金)が支払えないから、賃貸マンションを建設して、その一部を自宅にするなどの方法もあります。
相続した土地の一部を駐車場にして利益を出して、その収益を返済に当てることも考えられます。
これなら銀行から融資を受けて、代償金を支払えるかもしれません。

銀行は、融資の際にその物件に抵当権を設定し、もし返済ができなければ、その抵当不動産を処分(売却)して融資した金額を回収できますから、それでよいでしょう。

しかし、上の計画どおりにうまくいくとは限りません。賃貸マンションの賃料低下や、修繕費等で赤字になる問題があちこちで生じています。(業界や政府も、こういうトラブルを減らす方向で努力はしているようです。)

代償分割はできないことも

銀行からお金を借りて、自宅兼賃貸マンションを建設すると、建設費用がかかります。この費用を銀行から借りて、賃貸マンションの賃料(収益)から分割払いで代償金を支払おうという人もいます。

この場合、上にも書きましたが、マンション賃貸がうまくいかなければ、代償金の分が支払えなくなります。

そうなる可能性がある以上、代償金を毎月受け取るという約束・契約では相続人(1千万円ずつ受け取ることになっていた人たち)は、この「マンション賃貸業」を信頼できませんから、代償金は一括でもらわなければ遺産分割協議書に署名押印しない(代償分割は嫌だ)ということになります。

一般的には、それほど多くの収益が上がる賃貸マンション経営はないでしょうから、金融機関は、「自宅兼賃貸マンションの建設費用」と「代償金の分」を両方融資してくれるのかどうか十分銀行とも話し合ってください。こうなると相続人だけの協議では済みません。

代償分割ができない他の理由

代償金を賃貸マンション経営とか、駐車場経営で支払うのではなく、自分の給料などから分割して支払うことも可能かもしれません。

しかし、万が一、支払えなくなることもありますから、他の相続人としては心配です。
ひとりが相続しても、もし代償金が支払えなくなれば、その不動産を売却する・訴訟をするなどの方法もあるでしょうが、そのような手続きは面倒ですし、実際にいくらで売れるのかも不透明です。
相続は、相続人みんなが生活資金に不自由がなく、お互いに仲が良いのでなければ、非常に深刻な取り引きとなりますので、神経がピリピリすることがよくあります。

不動産を相続する人に、他の相続人たちは

  • 「代償金は、遺産分割協議成立のときに、現金一括での支払いしか認めない。」
  • 「手持ちがないなら、どこからでも借りてくるべき」

ということも多いようです。
こうなると、代償分割はできない可能性が高くなります。

親と一緒に暮らしていた長男(次男でも長女でも同じことです)が、親が亡くなった後、その家に住み続けたいと思っても無理なことがあります。そうすると、その家は売却して、自宅を購入するか、賃貸マンション等に住むことになります。

高齢になってから、それまで暮らしていた家を出るのは大変かもしれません。
また、障がいなどがある子が親と暮らしていて、代償分割ができず、家を売却して出ていく例もあります。

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